詰将棋入門(71) 2枚角の連携遠打

伊藤看寿 『将棋図巧』第8番 1755

伊藤看寿の比較的易しい作品が続いたが、本作は非常に難解。
解決の鍵を見つけるのが至難である。
さらに序盤の変化が複雑で狙いの局面に辿り着くことも難しい。



はじめに盤面を眺めておこう。
33銀は質駒に見える。
99飛と88龍の配置が目につく。
99飛を活用する方法は29飛と92飛成のほぼ2択。
いずれも88龍の利きが問題になりそう。

42桂成、同玉なら簡単だが、52玉と左に逃げられたら全然駄目なようだ。

とすると初手は33金と質駒を喰うか、43歩と叩くかの2択だ。

まずは動かしてみよう。
33金だと……。

【紛れ図】

同玉は待望の32桂成だし、同歩は(作意に合流して)詰む。
しかし、同桂が詰まない。

【失敗図】

詰まないと結論を言ってしまったが、実際にはこの局面まだまだ手が続くので悩ましい。

そろそろ作意を進めよう。
初手から
43歩、同玉、33金、

歩を叩いてから銀を取る。
初手で取るより同馬の変化が増えるので心理的にやりにくい。
もっとも同馬の変化は
52銀、42玉、43金、同馬、同銀成、同玉、34角
で案外簡単だ。

難しいのはやはり同桂。
これは
34銀、42玉、92飛成

【変化図】

ちょっとクラクラしてきそうな局面。
易しい応手は52歩合ぐらいだ。

この変化を丁寧に調べていったらそれぞれ膨大になるので省略する。
柿木将棋の出した3つの変化を見ていただくだけにとどめる。

【82歩合の場合の最終図】

【82金合の場合の最終図】

【62歩合の場合の最終図】

もっと短い順があるかもしれないが、作意の41手に近い長い変化が沢山あると理解していただければ良かろう。

さて作意に戻る。
初手から

43歩、同玉、33金、同歩、

前菜だけでお腹一杯だが、ここからいよいよメインディッシュだ。

52銀、同馬、32桂成、

5筋を塞いで32桂成と開き王手。
44の地点は攻方3枚、玉方2枚の利きだ。
かといって32玉は23金から21歩成で簡単なので間駒をしなければならない。

歩か桂か。

歩から試していこう。

44歩、

【変化図】

同金、同角、同と、32玉、43金、

ここで同角でなく32玉ならば33金という詰将棋らしい手段がある。

【変化図】

同馬、同と、22玉、23歩、

【変化図】

この23歩が間駒でもらった歩であることに注意されたし。

11玉、22角、同金、同歩成、同玉、32金、11玉、23桂不成 まで25手詰

この変化で角が余ることも重要な鍵だ。

ということで頭に利く駒を間駒すると同様に詰むので、44への間駒は桂馬が正解と分かる。

44桂、

歩合の場合と同様に進めると

同金、同角、同と、32玉、43金、同馬、同と、22玉、

【紛れ図】

23歩と打てない。
角を歩に交換しようと進めても

34桂、同歩、44角、33桂

【失敗図】

歩はくれない。桂合だ。

飛車を歩に交換しようと進めても

92飛成、82桂、

【失敗図】

やはり桂合されてうまくいかない。

29飛ならば桂合できないので歩が入るが……

29飛、28歩、

【失敗図】

28飛、同龍、

で23歩が打てても同龍とされてしまう。

やはり角が余るのだから角を歩と交換する方法はないかと
34桂、同歩
の局面で考えてみよう。

【失敗図】

角を打てるのは44と66だが、66角としても33桂打で何の変化もない。

実はこの作品、1歩を入手する物語ではないのだ。
この局面からどうやって閃くことができるのか。
そもそも閃きは論理的に辿り着くものではないのだろうか。

もしかすると「77角に同龍だったら92飛成で詰みそうだな」といった妄想が役にたつかもしれない。
もちろん現実には77角には桂合でも単純に同香成でもまったく詰まないのだが……。

そろそろ正解手順に進めよう。
12手目の局面まで巻き戻す。

桂合したところから
同金、同角、同と、32玉、

この局面で絶妙手が飛び出す。

87角、

65桂合は43と、同馬、92飛成、42合、23金以下。

この手の意味は次の妙手に至ってやっと理解できる。

同龍、43金、同馬、同と、22玉、34桂、同歩、77角、

同香成や間駒なら87龍の27への利きが消えるので29飛から21飛成で簡単。
同龍なら87龍の二段目への利きが消えるので92飛成……こちらが作意になる。

同龍、92飛成、

ここからは収束。
歩合はできない(二歩)。金銀合は並べ詰みなので桂か角。
桂はばらして24桂で簡単。

32角、同と、同金、同龍、同玉、


23金、31玉、22角、21玉、


23金で角1枚では足りなそうだが、21玉なら32角、11玉、12金、同玉、13歩成で決まる。

12金、32玉、33香、同桂、23桂成、同玉、13角成、32玉、
22馬 まで41手詰

収束にも角合から33香、23桂成といった軽快な捨駒を散りばめるとは流石だ。

それにしても本局、難しさもさることながら77角という妙手を準備するための87角が絶妙手だ。
これは焦点を作る捨駒といって良いのだろうか?
73香は77角を防いでいる駒だから焦点には違いないが、実はただの邪魔駒だ。

こういった議論は入門の範疇を超えるので雑談でやることにしよう。

「詰将棋入門(71) 2枚角の連携遠打」への1件のフィードバック

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください