伊藤看寿 『将棋図巧』第19番 1755
1回おきということを意識しているわけではないが、前回は難解作であったが今回はぐっと易しい作品である。
初手84銀や73歩成、82桂成などの手が見える。
しかしそれらはすべて失敗。
正解は銀・飛の2枚が利いている84にさらに歩を重ねて打つ手である。
84歩、
いかにも重い手で、92玉の一手だが有効な手が見えない。
歩を成捨てるくらいである。
92玉、83歩成、同玉、
これでは歩を1枚捨てただけ、秒読みに追われて時間稼ぎをしているわけでもあるまいに、これは一体どういうことなのだろうか。
賢明なる読者は上図と初形図を比較して、持駒が減っただけではないことに気づかれたはずだ。
そう、92歩が消えている。
82桂成、同馬、94銀、
84銀は74玉で後続がない。73歩成を入れておけば香車は取れるが75に逃げ込まれて手がないのだ。
銀は94銀と軽く捌きたい。
そのために邪魔な桂馬を成捨てる。
そして94銀だが、同玉ならば95歩だ。
【変化図】
以下、同玉、65龍で簡単だ。
これで序の4手の意味が理解していただけたことだろう。
もし、初手から82桂成~94銀では同玉と取られて95歩と打ちたいが二歩禁のために打てないのだ。
そこで作意は……。
74玉、
94同玉では簡単なので玉は74に逃れる。
75歩、同玉、85飛、74玉、
手順に攻めると打歩詰の形だ。
65龍、73玉、
さらに龍を引いてもやはり打歩詰。
しかし、ここから妙手順が現れる。
75飛、84玉、73飛成、
14手目の局面で85飛が邪魔駒になっているのである。
この飛車を鮮やかに4手かけて原型消去する。
以下は容易な3手詰だ。
同玉、74歩、84玉、85龍、
収束の飛車の原型消去が作図の出発点であろうか。
この14手目の舞台を構築する手順を逆算していく内に、92歩の配置を思いつき、狙いの中心が序の4手に移行してしまったのだろう。
ところで本作は現代のルールでは問題になるところがある。
17手目の73龍に対して、同玉として以下3手詰が作意だが、94玉と銀を取ると74龍上以下7手かかる。
歩が余るが4手の変長とされてしまう。
当時は妙手説だから勿論なんの問題もない。
これを修正するのは簡単で例えば下図のようにすればよい。
しかし、攻方の駒がポツンと残るのは美しくない。
それで看寿は変長を選んだのだろう。
【現代ルールなら?】
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