twiter上のやり取りを記録しておこう。
https://twitter.com/sengyotei/status/1296026146480336896?s=20
ウムノフは詰将棋界には受け入れにくそうな用語なので捨てています。「取らず手筋」という用語を使うと、その言葉の文字どおりの解釈から、ウムノフ以外のものも入ってきますが、それでもいいかと(28飛はその例)。
ウムノフ<取らず手筋— Problem Paradise (@propara) October 23, 2020
曖昧なのも日本的でいいかと。厳密な定義を与えたつもりでも、最初に想定していなかったような境界上のケースが出てくるのはよくあることですし。
— Problem Paradise (@propara) October 24, 2020
以上、なのですがこれだけでは不親切なので少し補足しておこう。
ウムノフについては詰将棋入門(78)\(ウムノフ\times 3\)でも書いているので、そちらから読んだ方が解りやすいかもしれない。
もともとウムノフというのはチェス・プロブレムの用語だ。
『チェス・プロブレム入門』では次のように記述されている。
白の1手目は黒の駒がどいた跡地へ直後に移動する手になっていて、これをUmnovと言います。
ウムノフはロシア系の人名だろうから、日本だったら森田手筋みたいな感じなのだろう。
詰パラ2015.8で若島正氏は「夢想の研究(2)前篇」で次のように書いた。
詰将棋でもこの手筋を「ウムノフ」と呼ぶことには抵抗があるし、第一おぼえにくい名前なので、いかにも芸の無い直接的な名称で気が引けるが、これからは「取らず手筋」と呼ぶことにする。
この論考の中では取らず手筋を次のように定式化している。
- 盤上にある攻方の駒Aの利きに、受方の駒Xがある。(つまりAはXを取れる)
- しかし、攻方はXを取らずに、あえてXを別の枡目に移動させる。
- その後で、AがXの元いた枡目に移動する。その着手は駒取りにならない。
補足として次の2点を指摘している。
- Xを移動させる方法は捨駒には限らない。
- Aが移動するのは直後でなくてもかまわない。
つまりこの時点では「取らず手筋」は多少の改変はあるが「ウムノフ」の日本語訳であり、「不成手筋」と韻を踏むというか駄洒落で提案された名称だったと言うことだ。
それから五年後、冒頭のtweetがされた。
つまり「取らず手筋」は広義に解釈されても致し方ないし、それでいいだろうということだ。
手筋の命名は、新しい詰将棋創作の意欲とヒントを与えるためにあるので、定義を厳密にして「その手筋に当てはまるか否か」を明確にする議論には何の意味もないからだ。(と言うことだろうと筆者は考える)
と言うことで現状では次のように理解しておいて良いようだ。
\(ウムノフ\subseteq 取らず手筋\)
なお、何度か登場した「28飛」とは次の作品のことである。
若島正『盤上のフロンティア』第27番 詰パラ2014.7
この作品の7手目の28飛という手を示している。
解説を読むと28飛を「取らず手筋」とは勿論表現していない。
6手目の18歩が玉方の「取らせ手筋」。つまり15歩~17歩だと18飛で詰むが、18歩とわざと飛車に取らせることによって打歩の局面に誘導しようという狙いだ。
対抗して7手目の28飛は攻方の「取らせ手筋」。すなわち素直に18同飛だと両王手なので69角は取られない。それを28飛と両王手を拒否することによってわざと69角を香に取らせるという狙いだ。
つまり玉方と攻方の「取らせ手筋」の応酬というのが作者の狙いだ。
しかし本局を並べたときに筆者は、取れと差し出された18歩を取らない28飛に強烈な印象を受けた。
(18歩の意味づけの新しさに気付かなかったといった方が良いかもしれない)
それで、これを「取らず手筋」と認識したというわけだ。