盤上のフロンティア 若島正 河出書房新社 2019.6.30
最初に告白しておくが、レビューを書くにはまだ筆者の読み込みが足りない。
(したがって、そのうちコッソリ書き直すかもしれない)
さて『盤上のファンタジア』で「これが最後の作品集」と書いた若島正は、新装版(そういえば第94番の作意手順の誤植は直っていなかった。誰かが伝えているだろうと思っていたがそれでも連絡するべきだった。)のあとがきで「どうも詰将棋はそんなに簡単に縁が切れる相手ではなかったらしい。」と書いた。
詰将棋解答選手権という催しを立ち上げた若島正は、そこで出題するために詰将棋を創り始めたのだ。
筆者は自慢ではないが解図力は貧弱だ。
出場してもただボーッとしているだけの可能性は高い。
しかし、若島正と上田吉一の新作が見られるというだけのために参加した。
第1回から第10回までは(つまり若島実行委員長時代–出題が見込める)皆勤賞である。
なので、解けた作品や解けなかった作品がいくつも載っている。
第57番などはよく覚えている。
実戦型は紛れが多いので好きでないのだが、この図はとても綺麗でいつまでも眺めていたくなる。
(でも、間違えた)
筆者がパラの大学院の担当をしていたとき、この若島・上田両巨頭の作品を並べたくて、大学院に作品の投稿を強請った。この頃は解答選手権の10番、すなわち39手詰を創っていたので、大学院(51手以上)にむいた作品は在庫にないかもしれないが、「スケーターズ・ワルツ」のような素材をまだ持っているのではないかという期待を持っていた。
ところが、解答選手権系統のかつ大学院級の新作を投稿してくれたのである。
本書の第99番に収録されている。
余談だがこの出題の結果がこれ。
仲良く同点だったのだ。
そういえばこの作品の元となった2つの作品を解説した興味深いテキストがあったのだが本書には収録されていなかった。近いうちに再構築されるというサイトでは読めるようになることを期待したい。
さらにご存じのように、将棋世界の巻頭詰将棋の担当も始めた。
今も続いているので言うまでも無いのだが。
第39番、第51番、第67番は記憶に新しい傑作だ。(第67番は解けなかった!)
本サイトの詰将棋ガイダンスにお薦めの詰棋書ベスト10というアーティクルがあるのだが、悩んだ末に選んだのは『盤上のファンタジア』だった。詰将棋初心者(将棋の初心者ではない)に本書は難しいと思ったのだ。
鑑賞の方法ではなく創作の方法について書かれているし、しかも「それは若島さんだからできるのだろう」と突っ込みを入れたくなる内容があちこちに露出している。
まぁ『ファンタジア』にも次のように書いているので一貫しているのだ。
理想の手順さえ思い描けば、殆どの場合その実現はなんとかなるものらしい。
……しかし、ちょっと考え直している所だ。
教育でやっていけないことは子どもの成長の可能性を見限ってしまうことだ。
後生畏るべし
子どもの成長はとんでもなく速い。
才能乏しい己を基準に考えてはいけないのである。
(筆者はヤン詰に載った相馬康幸の3手詰を覚えている。芹田修の近将初入選の作品は筆者が解説を書いた。皆、あっという間に一流作家に成長していった。最近の若手は初入選から可愛げがない人が多いんだけど……。)
だからこれから詰将棋の世界を知りたいという人には迷わず本書を薦めてみるのも良いのかもしれない。