詰将棋入門(124) 小駒煙第1号

黒川一郎「嫦娥」『将棋浪曼集』第98番 詰パラ1963.10

黒川一郎は「落花」で看寿の「煙詰」を固有名詞から一般名詞に変えた。
そして今度は看寿にもない趣向「小駒煙」で新しい地平を拓く。

100手もかかる作品だ。
どんどん進めていこう。

初手は二択だが15とを選ぶ人はまず居ないだろう。

13と、同玉、23歩成、同と、同香成、同玉、

16とを活用しないと切れてしまうことは明らかだ。

24歩、13玉、14歩、同玉、25と上、13玉、

これで12桂を清算できる。

23歩成、同玉、24と左、同桂、同と、12玉、

22香が固いので解しに行く。

11と、同玉、21香成、同玉、13桂、11玉、

31ととするのはまだ時期尚。13桂と消費して、34歩の邪魔駒を(実質的に)消す。

22銀成、同玉、33歩成、11玉、21桂成、同玉、

これで36香の利きが通ったので31とが決行できる。

31と、同玉、32と、同成銀、同香成、同玉、

42とと直接取ると51に潜り込まれる。
あくまで攻方の勢力圏から逃さないように落ち着いて攻める。

33と、41玉、52歩成、同金上、

これで趣向の舞台が整った。
ここからリズム良く攻める。

42銀、同金、同と、同玉、43歩成、51玉、


52金、同金、同と、同玉、53桂成、61玉、


62金、同金、同成桂、同玉、63歩成、71玉、


72金、同成桂、83桂不成、同成銀、72と、同玉、

83金をリズムを崩して入手しておくのがポイント。
ここで54銀を残しておいた理由が判明する。

63銀不成、82玉、83と、同玉、74銀打、同歩、
同銀不成、93玉、

9筋から上部に逃げる道がある。
そこに手掛かりをつけるためには銀を残しておき、不成で活用するしかなかったのだ。

94歩、同玉、85金、93玉、94歩、82玉、

ここから上手く押しつぶしていく。

73銀不成、91玉、83桂、81玉、82歩、92玉、

93歩成、同玉、84金、92玉、91桂成、同玉、


81歩成、同玉、72銀不成、91玉、92歩、同玉、


83金、91玉、81銀成、同玉、72香成、91玉、
82金 まで103手詰

「嫦娥」は浪曼集には「じょうが」とルビが振ってあるが、「こうが」が正しい読みだろう。
中国の古い伝説に登場する美女で月に逃げていった。
太陽を射落とした弓の名人羿(げい)の妻だ。
中国の月探査計画で有名になった。

これが全小駒図式かつ詰上り3枚の両面条件を満たした小駒煙第1号局。

今では小駒煙は何局も作られ発表されても誰も驚かないが、当時はみな衝撃を受けた。

安達栄司 詰棋史上空前の作品。
石沢孝治 不可能を可能にした手腕は双手を挙げて賞賛する。
小西稔 歴史的な作品。
酒井隆雄 絶対に不可能だと思われていたのに…。正に奇蹟である。
渡部士郎 詰将棋作品からこういう強い感銘を受けるというのはそうざらにあることではない。

どうも詰パラ74号で田中鵬看が次のように語ったらしい。

小駒の煙詰—不可能と思う。
小駒ばかりでどうして駒が消えるに従い広くなる盤面上の玉をとらえられるか、考える余地なし。

煙の権威による発言に誰もがそう信じていたのだろうか。
山田修司でさえ途中で合駒で大駒を発生させ、それを使って煙らせる構想を練っていたという。終始小駒図式での煙は想定していなかった。

1号局の偉大さを理解するのはなかなか難しいものだ。

もっとも小駒煙は何作も作られたとは云え、似たようなものも多い。
新しいものを作るということで言えば今でも小駒煙はかなり難しい条件作だと思う。

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