北川邦男『溪流』第57番 近代将棋1966.7
鋭く知的な短編が得意の北川邦男の中編作。
初手は飛車を打つよりないようだ。
歩は打てないし、23馬は無茶なので初手は飛車を打つ一手。
ではどこから?
32飛、
42飛では51角に取られてしまいますからまずは平凡に32飛と打ってみる。
序盤は普通にはじまる詰将棋もあることだし。
23玉、25飛、34玉、
【失敗図】
ところが馬の利きが塞がったので23玉と逃げられて、26銀が居るものの、この玉ひょこひょこと捕まらない。
44から55または53への逃走は避けられないようだ。
そこで32飛は諦め別の手を考える。
そうだ、持駒には歩もある。
それだったら直接飛車を捨てる手もありそうだ。
(初手より)
22飛、
同玉の一手に24飛と離して打つ手に期待をかけている。
同玉、24飛、
11玉に最後の1歩を12歩と捨てて、同玉、23馬、21玉、22馬まで
の詰みを見ている。
しかしこの構図はよく使われている構図なので覚えておいた方が良い。
捨合で失敗するのだ。
23歩、
【失敗図】
同馬なら31玉、
同飛成なら11玉で打歩詰、
同飛不成でも11玉に12歩、同玉で続かない。
32飛も駄目。
22飛も駄目。
となると、残るはここしかなかろう。
(初手より)
52飛、
これでは42に間駒をされてしまうのではなかろうか。
それでかまわないのである。
金銀桂合ならば喜んで飛車を切って、得た駒を打てば詰むではないか。
では香合では?
42香、
香合は、飛車と異なる性能の駒が入る訳ではなく、同じ種類の性能で劣った駒だ、
異なる性能の金銀桂ならば、23金(銀)、24桂と王手することができて簡単に詰むが、香が入ったのでは王手もできない。
一見失敗のようだが、実は香の方が劣っている訳ではないのだ。
42同飛成、同角、22飛、同玉、24香、
【変化図】
先の24飛の図と似ているが、実はこちらは詰む。
23歩合でも同香成として打歩詰にはならないからだ。
という変化を根拠にして、初手52飛には42に間駒はできないことが分かった。
(2手目より)
22歩、
22桂合なら同飛成、同玉、23飛、11玉、12歩、同玉、24桂、11玉、13飛成以下だ。
同飛成、同玉、23歩、
歩合でもなんでも取るしかない。
そこで32飛では23玉で何をしたんだか分からない。
52飛では今度は42桂合で困る。
そこで23歩と打つしかないが、12玉と逃げるのが正解。
11玉の変化から片付けておこう。
11玉、13飛、
41馬がいるので21に弱い間駒だと22歩成、同玉、32馬、12玉、21飛成で寄せきられる。
強すぎる駒、例えば金だと同飛成、同玉に頭金だ。
この形では角が定番なのだが、売切れ。
21銀、同飛成、同玉、32銀、12玉、22歩成、同玉、31馬、
【変化図】
23銀成でも詰むが、31馬の方が早い。
そこで23歩に対しての応手は
12玉、
初形と比べて、持駒の飛車1枚が23歩に変わったことになっている。
やはり飛車を打つしかない形だ。
52飛、
今度は23歩があるから42に間駒をする一手だ。
「今度こそ飛車以外の駒に代えてくれ」と迫る。
香合だったら「飛香不利交換」が狙いの詰将棋だったということになる。
しかし本作は更に玉方が粘る。
42飛合、
「飛車以外の駒に代えてくれ」に対して、
「いや変えてやらない飛車をやる」と云う訳だ。
同飛成、同角、32飛、
結局、32飛と打つしかない。
これは23と逃げられるのではなかったか?
いや、香は手に入らなかったが最初に32飛としたときとは状況が変わっている。
それは51角が42角に動いていことだ。
23玉、42飛成、34玉、23馬、
23玉と逃がしかけるが、42の地点に龍を作って角を入手できるではないか。
34玉と逃走しかける玉を強引に呼び戻す強手23馬があった。
44玉には33馬まで。
45銀、54歩はこのためにあったのか!
同玉、12角、14玉、15歩、24玉、22龍まで 21手詰
振り返ってみると、攻方は飛車を香に換えてくれと二度にわたり52飛と要求をする。
しかし玉方はその要求を拒否する。
それでも結果的に攻方は飛車を費消せずに51角を42角に移動させ質駒化することに成功したという訳だ。
作意を並べただけでは意味が分からない奥ゆかしい作品だ。
Tweet