長編詰将棋の世界(7) 煙サブセットの地平を拓く

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

選題の言葉 (2010.04)

 「面白いと思った順に採用します」と宣言したが、実際に並べることが出来るのは僅か月に二作。それが両題とも難解作では解答者も大変だ。また同じ作者ばかりでも変化がない。自分でやってみると撰題というものも難しいものだとわかる。
 しかし、今月は完璧だ。撰題の言葉を仮にここで切り上げて以下白紙でも読者諸賢に通じることと思う。しかしあえて蛇足を描こう。
 まずは作者名を見よ。この二人の名前を見て通り過ぎる方がいたら詰将棋という趣味を考え直した方がいい。この美しい初形を見よ。このお二人の貴婦人の飾り立てた衣装を一枚一枚剥ぎ取ってみたいと思わない男性がいたら(編集部:読者には女性もいらっしゃるので以下削除させていただきました)

岡村孝雄 「Fireflies」詰パラ2010.4


棋譜ファイル


「虹と雪のバラード」の対バンを探していたときに、岡村さんから「Fireflies」のことを聞いて是非にと投稿していただいた。手順の中に七種合という美しい条件を持つ「虹」に対し、ただならぬ美しい初形、そして芯の強さをもつ「蛍」。なんと似合の夫婦であろう。二人が並んで展示される日を爺はずっと楽しみにしてきました。

45と上、64玉、74と上、53玉、44と直、42玉、
33とイ53玉、63と上、54玉、65と、同玉、
66と左、54玉、45と、同玉、56と上、44玉、
34と、同玉、25と上ロ43玉、44歩ハ同玉、
55と左、43玉、34と、同玉、45と上ニ33玉、
44と左、42玉、52と、同玉、62と上、42玉、
41と、同玉、51と寄、32玉、23と、同玉、
34と上、13玉、24と上、22玉A33と左、11玉、
12歩、21玉、22歩、31玉、42と、同玉、
52と寄、31玉、41と寄、22玉、33と直、21玉、
31と、同玉、42と寄、21玉、32と寄、12玉、
22と上まで67手詰

 同玉は23と、43玉、33と、同玉、24と右、42玉、43歩、53玉、63と上、43玉、34と寄、42玉、52と、同玉、62と引、42玉、43歩、53玉、44と寄、64玉、63と引、55玉、45と引、まで31手詰
 33玉は24と寄、同歩、同と右、42玉、43歩、同玉、34と上、54玉、55と直、まで31手詰
 42玉は41と、33玉(同玉は51と、32玉、23と、同玉、24と右以下)、24と右上、同歩、同と寄、32玉、43歩成、同玉、34と上、32玉、33と右、41玉、42歩、31玉、21と、同玉、12歩成、同玉、23と上、21玉、22と左、まで45手詰
 43玉は54と直、42玉、52と、同玉、62と引、42玉、43歩、33玉、44と上、22玉、12と、まで41手詰
A  33と直でも可。唯一の非限定。

☆と金で王手するしかないのだから飛躍した手があるはずない。ところが実際に詰めようとすると、と金の大群がちらちらし、局面の差異が理解しにくい。なかなかの難物だったようだ。

☆まず初手66と左と遠い七段目のと金を活用したくなる。ところがこれが詰まない。

☆42が当面の玉の逃げ場所なので4段目の勢力を強める45と上が急務だったのだ。

☆5手目はのちに33同玉と取られたときのために24への勢力を温存して44と直が正しい。

☆33同玉に23とと攻めるとこれが取れない。かわされて心細くなるが、もう一度捨てて24と寄と、ここから殺到することに気づくと、今度は詰みすぎる。(変化イ)

☆遡って33とに同玉と取るのが間違いで、53玉と打歩を見越してよろけるのが本筋だった。

☆ここからは快調に手が進む。23手目44歩に42玉と下がられそうだ。しかしこの44歩が強力で41と以下詰む。(変化ハ)

☆44同玉ならさらに2枚のと金を押し進めて楽勝だ。終局が見えてきた。ほっと安心するその隙に本局最大の陥穽が待ち受けている。

☆それまで33玉の逃げには24とがあったので43玉が正解だった。それが30手目に限っては33玉が正解なのだ。43玉に44と左と攻めると作意に戻ってしまう。しかし43玉には54と左と遠慮がちに攻めると打歩を回避して早く詰む。(変化ニ)

☆ここでの誤解者は3名。解答競技は所詮遊び。遊びは真剣なほど面白い。なので厳しく誤解とした。ところが3名ともA評価をくださっていたので平均点は下がってしまう。なんとも矛盾を感じるが、作者よお許しあれ。

☆ここからは難しい所はない。あれよあれよと局面は収斂し、なんと歩18枚配置の豆腐図式が次の詰め上がり図に至る。

☆これは豆腐煙といわずして何と呼ぼう。

☆ただし1号局ではない。同じ作者による「海雪」が1号局だ。

作者 ”歩なし煙”がこれだけあるのだから、”歩煙”(準煙ですが)があってもいいのでは?と、煙詰の条件で遊ばせてもらいました。「海雪」(パラ09.3、69手)の連作で、歩一色煙(準煙)2号局です。
 共通の収束7手から異なる手順へと逆算してみましたが、手順趣向に力を入れた「海雪」に対し、本作では初形を拡げてみたり都玉からの助走をつけたりという方向で創ってみました。
 局面全体を使う感じで絞っていく手順が気に入っています。逆に残念なのは、(他が全て限定なだけに)47手目の非限定です。

野口賢治 「海雪」との違いは都玉なので段違いに初形美があり、同時に詰難さも加わっている。しかし歩一式煙の発展性と成ると最長手数か入玉図か自ずと限界がありそうだ。
小川悦勇 「コロンブスの卵」とでも言うべきか。騎馬も弓矢も持たずして、誰が戦場に向うのか?無鉄砲な勇者が一人「と歩図」の傑作を創る。A
躑躅 A最初は完全限定かと思ったので47手目の非限定が少し残念.豆腐煙の長手数記録かと思いましたが,誤解でなければ違うようですね
永島勝利 美しい蛍の群れの舞い踊りでした。
市原誠 口惜しい!あと1枚消えたら清涼詰だったのに…。
詰鬼人 駒捌きの妙により、と金が僅か3枚しか残らぬ芸術的な作品です。
池田俊哉 作者研究によれば「豆腐図式煙」の詰め上がりは4枚が最小のはず。ということで「豆腐図式煙」最長手順の達成おめでとうございます。捨て絞りしか手筋のない所で、これだけ精密な手順を編み出す作者の力量に感服します。
武田静山 序盤、何度もやり直しさせられたが中盤から筋に入る。
鈴木彊 凄いですね。18枚の歩を全て配置し、内容もよし、盤上に置き去りの駒なしで、詰め上がりも4枚だけの準煙詰ですね。このような作は今後見られないでしょう。
神谷薫 全と図式ではなく適所に生歩を配置することで規則的な繰り返しではない粘り強い手順を実現。この作者のこと、盤面歩のみでは最上の表現なのでしょうね。次は金全圭杏と歩図式を見せて欲しいです。
国兼秀旗 ただと豆腐かと思ったら煙ってびっくり。
中沢照夫 豆腐図式。飛躍した手はないはずだが実に難しい。海雪とはちがった味わいの準煙。段目のと金がせりあがって行く所が素晴らしい。
小林巧 豆腐図式の煙。豆も絞って「おから」ってんならわかるけど、この横文字ハイカラ標題は違和感あるな…。
加賀孝志 豆腐図式もここまで楽しめれば。駒の消し方が芸術的まとまりがある。
凡骨生 と金で網を絞っていく様は、真綿で首を絞められるようだ。
須川卓二 と金が目に沁みますね。67手とは驚きです。A
和田登 と金の大軍、筋が見えづらく難解だった
昭和三十六才 ほたるが色々なペアを組んで追い詰めていく。
斉藤博久 まさに芸術品という感じ。煙詰にしたかった。
中出慶一 都玉の豆腐図で、煙もどきの捌き手順の実現が見事です。(結果稿では09年3月号のデパート5番を含めて、その関連と共に解説をお願いします。
宮本慎一 世にも奇妙なと金だらけの詰将棋!
竹中健一 意外と長手数ですが、こういうのを頭の中で解くのはしんどいです…
増田智彬 左下のと金群を早く動かしたい心理が働くため、この導入部は想定外だった。A
今川健一 豆腐図式で、これも煙詰でしょうね。いろいろな条件での煙創作に感心です。螢と云えば、「もの思えば沢の螢も我身よりあくがれ出づる魂かとぞ見る」という私の好きな古歌がある。小川のせせらぎ、舞う螢。こんな風景は遠い昔になりました。
會場健大 目がチカチカして訳がわからなくなった。切れたかのように思える局面で、44歩と叩いて手が続くとは。42玉で掴まらないかと思った。

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