長編詰将棋の世界(14) 府中を4周半

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

選題の言葉 (2010.07)

 「最長手数記録ですか」という言葉をよく見かける。その作品の狙いと長手数であることが密接な関係ならばわかる。が、どうもそうとは限らない。
 手数が長い方が高級な詰将棋。そう思い込んでいるのは、どうも初心者だけではないようだ。
 このような風潮が続くと。そのうち「双方不成の長手数記録作です」なんて投稿でも来るのではないかと心配だ。
 計測可能な「量」にばかり目がいくと、「質」を語る言葉が痩せ衰えてしまわないか。
 今月の2作は長手数記録作ではありません(たぶん)。でも絶対に面白い。解かないと、ソンです。
 後期は期待の若手二人で華やかに幕開けすることができて最高に幸せ。

馬屋原剛「馬レース」詰パラ2010.7

棋譜ファイル

{78馬、57玉、68馬、47玉、
58馬、37玉、48馬、27玉、
38馬、26玉、16馬35玉}=
27桂、45玉、34馬、54玉、
44馬、64玉、54馬、75玉、
64馬、85玉、74馬、86玉、
96馬、77玉、87馬、67玉、
、27桂、45玉、34馬、
54玉、44馬、64玉、54馬、
75玉、64馬、85玉、94馬、
同歩、
{63馬74桂、同馬、86玉、
96馬、77玉、87馬、67玉}=
、27桂、45玉、41飛成、
42歩、34馬、54玉、44馬、
64玉、54馬、75玉、64馬、
85玉、、32龍、
同金、27桂、45玉、34馬、
54玉、44馬、64玉、54馬、
75玉、64馬、85玉、
27桂、45玉、34馬、54玉、
44馬、63玉、54馬、62玉、
63歩、71玉、61桂成、同玉、
51歩成、71玉、62歩成、同玉、
52香成、73玉、64馬迄155手詰

37玉は29桂、47玉、38馬、57玉……68馬迄
75玉は74飛、85玉、24飛、75玉、64馬……37玉、48馬迄
74香合は同馬、86玉、96馬……27玉、28香迄

☆馬で追い回していくことが予想できる初形。さっそく反時計回りにスタートしよう。

☆16馬に37玉とバックするのは29桂から逆向きに追いかけて77玉で捕まえることが出来る。27桂と桂馬を使うのは惜しいが飛車を動かすのは無理筋なので仕方がない。自然に追いかけていけば96馬77玉87馬で1周完了。初形と比べて96圭が消去されている。

☆もう1回転出来るが、右コーナーを曲がるには桂馬が必要だ。どこで調達できるのか。

☆それは左コーナー85玉に63馬という手がある。85玉なら84飛で簡単。75玉と千日手狙いでごねても74飛から24飛と開けば、あとは普通に追っていって桂馬を必要としない。かくして63馬には桂馬の合駒が出現する。香だと?そう、27玉に28香がある。これで無限回転が可能になった。

☆もちろんぐるぐる回っているだけでは解決しない。鍵を探さなくては。盤面を見回せば、動かせそうな攻方の配置は左上しかない。しかも玉に絡めるのは61馬以外にはないことが判る。タイミングも45玉か54玉に72馬か85玉に対し94馬。後の展開を考えれば、後者が正解とは予想できる。これが2周目の仕事だ。

☆3周目、61馬が消えて自由になったのは71飛と73桂。75玉に61桂成か45玉に41飛成かの選択だが、これも明らかに後者が有力と判る。41飛成42歩合。これが3周目の仕事。

☆4周目、これは明らかに35玉に対して32龍同金が継続手段だ。ここで得た桂馬を89に打つことによって左コーナーが閉鎖され、レースは終了となる。

☆このような解説がほとんど不要なほど、この作品は易しい。しかしここまで大規模にオーバルコースを設定し大胆に馬で追い回す作品は初めて見た。

☆おわかりのように無限回転軌道を造るだけで駒も空間もほぼ使い果たす。残った駒と空き地でどれほど回転させる鍵を組み立てられるか。作者を創作に駆り立てたのはおそらくこの厳しい条件であろう。

☆さてその成果はいかに。解答者の声をきいてみよう。

今川健一 「まわるまわるよ時代はまわる、喜び悲しみ繰り返し…」こんな歌を口ずさみながらの解図です。歌の途中で合いの手が入る、これが良いアクセント。何処で収束、調子に乗って追っかけたら、駒不足。楽しく解図が出来ました。

野口賢治 1桂消費、1桂入手の新機軸で回す馬追いサイクル。相手の懐具合を確かめながらちゃっかり空き地を利用した合駒ねだりの63馬が狡猾…いや巧妙でユーモラスでもある。

高坂 研 5周もの馬の追廻しは文句なしに面白い。知恵の輪のキームーブの発見はそれほど難しくないが、それもむしろこの長閑な趣向には似合っているように思う。

原雅彦 61桂成をするために馬を動かしました。

武田静山 61馬が邪魔駒と気付き問題解決。

加賀孝志 89に桂を置くことにより巡回はできなくなる。序からいきなり趣向にはいるので考えやすいが夏向きのスッキリ作。

吉川慎耶 94馬と41飛成の組み合わせが意外に見えにくく悩んだ。桂合を自然に盛り込んだ馬追いで飽きを感じさせない。

永島勝利 うまいメカニズムですね。楽しめました。このような易しくて楽しい大学院が好きです。

橘 圭伍 この形の馬追いは初めてでしょうか。配置の制限が強そうなので鍵を入れるのが難しそうですが巧く入れたと感心しました。

原田清実 これだけ本格的な「馬追い」は初めてのような気がします。長ければいいというものではありませんが、「長手数馬追い」の可能性が広がったと思います。ポイントとなる桂を捨合で得るところがうまいですね。

竹中健一 これは面白いし、カラクリが良く出来ていると思いました!

佐藤 司 タイトルからして二枚馬の競演かと思いきや、一枚は貴重な犠牲と消えました。

神谷 薫 もっと繰り返せれば…というのは望ショクでしょう。キー駒を配置していた空き地(左上)を再活用した収束も無難なまとめですし、よくできていると思います。

詰鬼人   延々と続く馬の追撃、難しさはありませんが、71飛の活用が鍵。

須川卓二 何だか自己紹介のような作品。馬が場内を駆け巡る姿が目に浮かぶようです。鍵となる部分をもっと複雑にするのは駒数から言っても難しいのでしょうね。

凡骨生   回転馬追い4回半、巧く桂合をさせる。

宮本慎一 玉と馬の鬼ごっこ。何回も同じ所を回り馬ハンターから逃走中。桂の協力を得て玉が捕まえられる。

昭和三十六才 桂馬ならまだしも龍馬に追いかけられるのは大変。

国兼秀旗 香の利きを通して馬捨てを可能にし、馬を捨てることで飛車の利きを通す。飛車の利きを通すことでもう1枚の桂の入手が可能となり、89桂が打てて収束に入る。これらの着手は論理的必然だが、それが馬1回転につき1つずつ小刻みに現れるところが面白い。

斎藤博久 人に優しい長編は大歓迎です。

中沢照夫 馬がトラックを4周半。解く鍵となるポイントが全周に散りばめられ無駄駒が少ない。ユーモラスで解者にやさしい馬追い作品だが、作る方は大変なのでしょう。

小林 理 馬が時々草を食む姿が何ともユーモラス。収束がっやあっけない感じがちょっと残念。流馬の追い回しで少しずつ局面を打開。明快ながら随所に好手も光りさわやかな仕上がり

鈴木 彊 馬レース文句なしにおもしろかったです。63馬で桂合を強要させ94馬捨てにより飛車を活用させ成桂を入手するなど山あり谷あり素晴らしい。十二分に楽しませていただきました。

小川悦勇 馬屋原杯争奪の記念レース。競馬界最大の長距離レース。動物愛護の観点からこれ以上の長距離は開催不可になっています。

池田俊哉 盤面を見ただけで顔がほころぶ回転馬追い知恵の輪。6一馬が動いたところで6一桂成に心惹かれてちょっと悩みましたが、あとは一気呵成。唯一の心残りと言えば「馬レース」ならば左右反転して時計回りの方が良かった?(笑)

増田智彬 盤面を大きく使った知恵の輪的な馬追いですねぇ。この作者なら収束ももっと良いのが出来るのではないかと期待してしまいます。

和田 登 府中の左回りを4周半する長い馬レース

☆ご覧のように好評だった。謎解きとしては易しくても作者の若者らしいおおらかな構想が解答者の心を掴んだようだ。

☆「知恵の輪」の面白さも強調しておきたい。作意手順を有する詰将棋というパズルはえてして一本道の物語を辿る解図経過になりがちだ。無限軌道を彷徨うなかで次の扉を開く鍵を探すというのはスリリングな楽しみを味わえる。

☆なお、1周余分に回転した方がいらっしゃったが、迂回手順の解答なので正解にした。(今後わざとはしないでください)

作者 馬を用いた回転趣向の知恵の輪。解答者を増やすのが狙い。

☆狙いは達成された。感謝!

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