2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。
選題の言葉 (2010.08)
全国大会ではみなさまお疲れ様でした。スタッフの皆様ありがとうございました。
今月は夏休み。それに相応しい骨のある作品を用意した。骨があるといっても初手からガチガチでとても歯が立たないといった料理は趣味ではない。(誰だって同意するだろう)
口当たりは柔らかいが、手が進むほどにコクがあり、やがて作者の仕掛けた狙いがくっきりとその輪郭を現してくる。そのような料理が好みだ。
今月の2作、見かけも手触りもまったく違う分野の作品のように見えるが、その構造は共通している。手順の奥に極上の謎が浮かび上がってくる。
骨をしゃぶるのが一番旨い!是非みなさん味わってください。
森敏宏 詰パラ2010.8
棋譜ファイル
☆2枚馬に囲まれたパラリとした初形。持駒はも数は多いが香と歩の2種類。まずは考えてみようという気になる。
☆しかも序盤は絶対だ。
55歩、同玉、56馬右、54玉、55香、43玉、
52馬、32玉、33歩、
☆ここから変化が多岐に分かれてくる。しかし2枚馬の包囲網はかなり強力。同玉は34馬上で22玉24香。21玉は43馬で11玉13香。攻め込んでみれば案外簡単だ。
☆22玉、23歩、12玉、13歩、同玉、14歩、同玉、47馬、
【途中図】
☆23玉、24歩、33玉、35香、
☆ここで22玉と24玉がある。
どちらが本筋か。
☆24玉はすぐに25馬引と攻めることができる。
☆22玉は22玉、32香成、13玉(同玉は14馬)、14歩、24玉で25馬引だ。23玉、13歩成、同玉、14馬、12玉、56馬、11玉、22成香、同玉、23馬右、31玉、32歩、21玉、22歩、11玉、12馬迄
☆しかし、この順はオカシイ。32歩とせずに41歩成で持駒が余る。
☆途中図に至る前、23歩に11玉と逃げ、12歩同玉を入れて解答された方が数名。しかし、11玉なら14香から22歩成で簡単だ。
☆実は途中図で36歩という手がある。同馬の一手。これで56馬ができない。
☆急に局面が広大に見えてくる。無解者の多くは、この36歩に気付いたが、その打開策を見いだせなかった方だ。院4を正解しながらも、本作は「降参」という方もいらっしゃった。
☆途中図は既に失敗図なのだ。鍵は途中図に至る前にある。
55歩、同玉、56馬右、54玉A55歩、53玉、
54香、42玉、52馬、32玉、33歩、22玉、
23歩、12玉、13歩、同玉、14歩、同玉、
47馬イ23玉B24歩、33玉、35香ロ22玉、
32香成、13玉、14歩、24玉、25馬上、23玉、
24歩、32玉、41馬、21玉、43馬、11玉、
33馬、22桂、同馬、同玉、13歩成、21玉、
33桂、11玉、12と、同玉、23歩成、11玉、
21桂成、同玉、32馬、11玉、22馬まで53手詰
A 55香は43玉、52馬、32玉、33歩、22玉、23歩、12玉、13歩、同玉、14歩、同玉、47馬、36歩、同馬、23玉、41馬、33玉、34歩、43玉、52馬、32玉、54馬、23玉、24歩(26香は25銀で不詰)、33玉、35香、24玉、25馬引、13玉、14馬、12玉以下不詰
イ36歩合だと同馬23玉41馬33玉34歩43玉53香成同玉63馬上43玉52馬左迄
ロ24玉は25馬引、23玉、14馬、12玉、56馬、45桂、同馬、同歩、24桂、22玉、23歩、11玉、12歩、21玉、32香成まで39手詰
B 26香は24銀合、同香、33玉で不詰
☆先ほどは冒頭5手目、55香と打った。正解は、そこで55歩と打つ。むろん53玉とごねる。そこでさらに54香と打つ。これが正解なのだ。
☆歩は確かに豊富にあるが、1歩の有無が成否を分ける展開になるのが見えている。その状況で香1枚ですむところをわざわざ歩と香を重ねて打つこの非条理。これぞ詰将棋の醍醐味ではなかろうか。
☆では謎解きにかかろう。すでにご覧のように作意手順には36歩合はでてこない。つまり36歩合の変化に歩香重ね打ちの秘密が存在するはずだ。変化イを見ていただきたい。55歩の働きが光る詰上図であることよ。
☆「まさかこの局面でこんな手が!」という詰将棋の原点を鮮やかに盤上に蒸着させた作者、森敏宏に万雷の拍手をお願いしたい。ちょっと古い人なら、ああ、さすがあの森敏宏だと呟くはずだ。
☆さて、名品の成立には必ず少なからぬ幸運が伴うもの。本作品の守護天使は銀だ。
永島勝利 55香とした際の18手目36歩で逃れているのが驚異的。同馬23玉で26香に対し24銀合とか、41馬33玉34歩43玉52馬32玉14馬に対する24銀合とか、陰で銀がよく働きますね。表面にはまったく銀は出てこないので、これが本当の裏方。
☆36歩を同馬として23玉に41馬以下詰めてこられた方もいた。以下33玉、34歩、43玉、52馬、32玉、54馬、23玉、26香。ここでも25銀合で逃れている。
詰鬼人 42歩の有無が36中合に微妙に影響するのは巧妙な手順
斎藤博久 42歩は8手目を限定にするために配置したと思われるが、8手目42玉のときは41馬43玉の無駄な2手を入れても成立するキズがある。
増田智彬 5手目に55香と指すが、20手目36歩の妙防でどうしても詰まない。その謎を解く鍵が5手目を55歩、7手目を54香とする歩香重ね打ちにあるとは!!これぞ構想の妙ですね。
加賀孝志 キメの細かい作。馬二枚で玉をたぐり寄せる。収束は見たことがと思うが、そこへ辿り着くまでのプロセスを買う。
神谷薫 この初形からの歩香重ね打ちは全く見えなかったのでかなりの時間悩まされた。それ以降は北原義治さん作(近将1985.02)を思い出す32香成だなぁとか、平正利さん作(近将1988.12)を思い出す22桂合~13歩成だなあと思い出しながら楽しく手を繋ぐことができました。64歩配置の初形一の字が創作の起点でしょうか。初形趣向としては中途半端な感もありますが、追加した配置は歩だけですし、この手順はよくぞ紡ぎ出したものだと思います。
池田俊哉 使用駒から頭の痛くなるような合駒調べかと思いましたが、正解は右隅の細かい綾を含んだ駒のやりとりでした。考え所としては、なぜ5筋に歩香重ね打ちをしなくてはならないか、のあたりで、36歩中合を見逃して悩みました。42歩は残した方が良いのかどうか悩みましたが、とりあえず外してみました。変別だったら力不足です。
鈴木彊 序の55歩から54香の無筋と思える手が47馬の時の36歩合の筋をはねかえす絶妙手とは驚きました。
須川卓二 誰でも打つ5手目55香だが詰まない。散々悩んだ挙句、極上の謎「歩香の重ね打ち」にやっと気付いた。かつての研究論文を覚えていたのが幸いしました。
野口賢治 歩と香を連打するしかないが、一手一手、疎かにできない攻防は単調ではなかった。35香限定打が入ってメドが立ったが、最後まで清貧に徹した潔さは高く評価されるべき。
小川悦勇 挫折後の休戦期間は5日、それから2日、ようやく歩香の重ね打に気がつく。懐かしいお名前に会えて更に嬉しくなりました。
今川健一 難しい、5手目に55香打と指して大苦戦。まさか、まさかの歩香の重ね打ちとは!変化、43王に53香成、同王、54馬。感心しました、見事な伏線。謎解きとして最高のパズルです。
和田登 8手目は43玉でも同一手順。42玉は41馬、43玉と無駄な2手が成立するのが不満。42歩を残さない順を本手順とした–ところで、8手目42玉と43玉は非限定ですか?
☆非限定です。42玉とし、41馬以下2手迂回して詰めた方も正解。42歩は余詰防ぎ。ないと55香で詰みます。
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5手目、5六香が正解なら、北原義治氏の初形曲詰 (近代将棋昭和60年2月号、第65期塚田賞特技賞) に似ているような気もしますが、手順はほぼ別物。この意味付けでの不利先打+重ね打ちというのは他に例があるのでしょうか。あるような気がしますが、思い浮かびません。
北原氏の作品発表当時、森氏は近代将棋の編集長でしたが、果たして本作、北原作品の影響を受けた派生作品なのか、偶然の類似なのか気になるところです。
■ 参考: 北原義治氏作31手詰
https://hirotsume.blog.fc2.com/blog-entry-118.html
確かに似ていますね。北原作を検討していて思いついた順を25年後に図化したということも考えられそうです。
前例については不勉強なので分りませんが次の論文が参考になるかも。