2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。
摩利支天「STARSHIP TROOPER」 詰パラ2010.8
☆図巧には竜追いの長手数作品が2作収録されている。一つはいわずもがな、第100番の「寿」611手詰だ。持駒変換を利用し、と金1枚剥がすのに2往復しなくてはならない傑作。(詰将棋入門4)
☆もう片方は第83番。至って素朴。一往復する度に置き駒を消去していく。51歩~13桂の5枚を食べ、6往復して詰に至る。261手詰。
伊藤看寿「将棋図巧」第83番
(詰将棋入門93)
☆この83番が作家達に命題を与えた。
☆「持駒変換を使わない龍追いでどこまで手数が伸ばせるか」
☆その成果として最初にあげるべきは江東三人男の一人、黒川一郎の「竹生島」(風ぐるま1953.9)だろう。
黒川一郎「竹生島」 風ぐるま1953.9
☆一往復に60手も掛かる長大なコースを作り、左下の8枚の駒を消去。9往復して551手の大作だ。
☆そして今迄の到達点が相馬康幸の「風神」(詰パラ1985.4)である。
相馬康幸 「風神」 詰パラ1985.4
☆左上の駒を剥がし、それを用いて左下の駒を剥がすという画期的な手法で10往復。589手。
☆さて、それではいよいよ本作を解明していこう。
☆52飛成以下右下でUターンして戻ってくる順に難しいところはない。さらに追いかけて右上のUターンもすでに看寿で予習済みだ。
☆1往復目は41歩を消去する。2往復目で61歩を消去、3往復目で71歩、4往復目で72桂を入手右上で持駒の歩を使用して持駒「桂」となる。
☆4往復目で82歩をとると91香に手が届く位置だ。香を入手できれば15龍23玉のときに24香で終了なので、玉方は香をとられるわけにはいかない。したがって82龍には62(または72)歩合と応じる。したがってここからは「消去」でなく「入手」となる。
☆5往復目で83桂入手。6往復目で93歩入手。7往復目で94桂入手。これで取れる駒はすべて入手した。この段階で持駒「桂3歩2」。さて、この駒を用いてどこから収束するのか。
【途中図】
94桂を入手した所
☆ここまでは順調だったが、ここからが骨の部分だ。いったいどこから収束するのか。無解者のほとんどはここから無限軌道を虚しく回転したに違いない。
☆12龍24玉の形で36桂以下詰ました解答をいただいたが、同全で右下での折り返しができなくなり不詰。
☆87龍75玉の形で67桂以下という答案もあったが、これは65玉とよろけて不詰。
☆74龍53玉の形で54歩が有力だ。同金。またぐるっと巡って85龍64玉の形で65歩。ところが、この歩は取ってくれない。73玉74龍62玉と下がられて63龍71玉と逃げられる。
☆お手上げだ。収束への鍵は何処にあるのか。
☆実は途中図とあげた図面は本当は失敗図。この局面にまで進めてしまってからでは、もう詰はない。
☆これは首氏の言う「慣性の罠」である。惰性で持駒を限界まで増やそうと進めてしまっては失敗するのだ。途中唯一のタイミングで収束への準備工作を施しておく必要がある。
【検証図】
☆図は先ほど54歩と攻めた場合の失敗図。この図から時間を遡ることで謎は解明できる。
☆まず持駒から桂馬を減らし、94に配置した図を考える。これは詰まない。
☆次にさらに持駒から歩を減らし、それを93に配置する。なんとわずか7手で詰む!
☆さらに桂馬を83に戻して試みる。詰まない。
☆これで、54歩のタイミングが1回しかないことが確認できた。すなわち、83桂を入手した後、93歩を入手する前。この時だけ、54歩そして65歩の攻めが成立する。
☆それでは作意を並べていただこう。
52飛成、64玉、
{63龍、75玉、74龍、86玉、85龍、77玉、
87龍、68玉、78龍、59玉、69龍、48玉、
49龍、37玉、47龍、28玉、17龍、38玉、
27龍、48玉、47龍、59玉、49龍、68玉、
69龍、77玉、78龍、86玉、87龍、75玉}=甲
85龍、64玉、74龍、53玉、63龍、42玉、
52龍、31玉、41龍、22玉、
{21龍、13玉、12龍、24玉、15龍、23玉、
24歩、22玉、12龍、31玉、21龍、42玉、
41龍、53玉、52龍、64玉}=乙
甲、85龍、64玉、74龍、53玉、63龍、42玉、52龍、
31玉、61龍、22玉、乙、甲、
85龍、64玉、74龍、53玉、63龍、42玉、
62龍、31玉、71龍、22玉、乙、甲、
85龍、64玉、74龍、53玉、63龍、42玉、
72龍、31玉、61龍、22玉、乙、甲、
85龍、64玉、74龍、53玉、73龍、42玉、
82龍、62歩、同龍、31玉、51龍、22玉、
乙、甲、85龍、64玉、74龍、53玉、
83龍、42玉、82龍、62歩、同龍、31玉、
51龍、22玉、乙、甲、85龍、64玉、
74龍、53玉、54歩イ同金、73龍、42玉、
82龍、62歩、同龍、31玉、51龍、22玉、
乙、甲、85龍、64玉、65歩、同金、
84龍、53玉、93龍、42玉、82龍、62歩、
同龍、31玉、51龍、22玉、乙、甲、
85龍、64玉、94龍、53玉、83龍、42玉、
82龍、62歩、同龍、31玉、51龍、22玉、
乙、甲、85龍、75玉、67桂、同と、
85龍ロ66玉、78桂、同と、67歩、77玉、
87龍、68玉、78龍、59玉、69龍、48玉、
49龍、37玉、47龍、28玉、17龍、38玉、
27龍、48玉、47龍、59玉、49龍、68玉、
69龍、77玉、78龍、86玉、87龍、75玉、
85龍、64玉、74龍、53玉、73龍、42玉、
82龍、62歩、同龍、31玉、51龍、乙、
55金、ハ73玉、63龍、84玉、74龍、93玉、
85桂、92玉、93歩、81玉、82歩、同玉、
73桂成、93玉、83成桂迄625手詰
イ同とは同様に追って65歩に同と引となる(同と上は44龍と金が取れる)次の周回で67桂が打てるので早詰。
ロ64玉は76桂、54玉、55歩、53玉、83龍以下早い。
ハ同金は63龍、75玉、74龍、86玉、78桂、96玉、76龍迄
☆65歩同金を実現してから93歩94桂を入手し、次は87龍75玉の形で67桂と攻める(551手目)。
☆同と85龍に対して64玉と逃げた方が数名いらした。64玉は変化ロのように早く詰むのだが、76桂と打たずに追い回しても長手数で詰む。この順の解答は「変化別詰」で不正解だ。しかし今回は正解扱いにした。その理由は後述する。
☆さて、66玉と逃げると78桂同と67歩とここから短くターンしてと金を剥がすことができる。ゴールは目の前だ。
☆再び右上でターンして55金が最後の扉を開ける鍵だ。
(611手目55金の局面)
作者 持駒変換を使わず伊藤看寿の「寿」の手数を超えたというところを、まずは見て下さい。
☆最後の妙手55金が611手目とは不思議な偶然だ。
詰鬼人 流れに乗って93歩を取るのを保留し、54歩と65歩を利かせるのが巧い手順です。
☆盤の端に消去する駒を配置する工夫は「風神」が限界とみたのか、作者は中央に鍵を配置することを考えた。54と、66との2枚だ。
☆このことは長手数を実現しただけでなく、パズルとしての質も変化させた。手順前後の解決が必要になり難度が劇的に上昇した。作者が苦心した分、解者も苦心するという仕組みだ。作者の代表作に数えられる作品になることは間違いない。
作者 往復式無限軌道型超長編龍追作品です。本作は、配置の曖昧性が極めて少なく、89飛を99飛か99龍に変えられるのと、持駒の歩を龍に取られる位置に置ける以外の変更は一切利きません。
永島勝利 玉(順序の変更)でその都度、対応できました。結果としてさほどの難解感はありませんでした。確かに54歩、65歩、67桂のタイミングの絶妙さなど、精緻な手順には感心しましたが、解答強豪が苦戦するかどうかは正直疑問ですね。でも、お陰様で、お盆休みの家族サービスの合間を楽しむことができました。
☆詰ますことよりも作意順の選定に戸惑ったという声が多かった。
今川健一 この暑いのに、えっちらこっちら追いかけた。 作意が解らず、大弱り。解答書きも半日以上はかかったな。 猛暑に、この出題とはね。先生、少しは考えて。 この夏は猛暑続きで、倒れる老人も多いとか。それでも、麦茶を片手に頑張った。これで今晩は安眠できるぞ、です。
斎藤博久 66玉の発見がポイントでした。
池田俊哉 …といってもおそらくは正解ではないでしょう。67桂同と85龍の後64玉の方が長いし、なによりも93歩を取りに行くときの74歩中合の変化を無駄合いで済ませてしまうのはなんとも腑に落ちない。しかし、この手順でしか駒余らずで詰む順を思いつかないため、これで解答します。
☆93歩を取りに84龍としたとき、74歩という応手があった。これは解答者を悩ますのも無理はない。
☆この段階では無限ループができているので、74歩は無条件の玉方から攻方へのプレゼント。したがって「無駄合」と考えていた。しかし、先月号に私自身が書いたように、このタイプの無駄合は馬鋸のみに認められた不文律。まだまだ一般に拡張されて認知されているとはいえないようだ。
☆私は2001年3月号の安江論文を支持しているので本作は完全作と考える。しかし、「どうしても歩が余る」と解答者を混乱させたのも事実だ。そこで67桂まで正しく辿り着いた解答はすべて正解とした。作者および解答者の皆様のご理解を乞う。
鈴木 彊 なかなか終着点が見えてこないので焦りました。しかし最後に55金という絶妙手により地獄に佛を光を見ることができました。ありがとうございました。 猛暑の中での超難問解図者には地獄を味わわされましたが、
竹中健一 合ってるかなぁ…こんなに手数が伸びるとはビックリです。
野口賢治 ハガシで桂3枚を入手すれば準備OK.66とを消した後、55金と出て収束に向かうのが最終目標だが、語れば短い物語ながら長かった。
福村 努 非限定(264手目、322手目、442手目、500手目、590手目)62歩合いの所72歩合いでも同様。
加賀孝志 最後に馬が成るグルグル目が回りました。中合も入り引き締まりました。
武田静山 どうしても1歩余ります。もう1回転どこかで必要なのかもしれませんが限界です。
増田智彬 駒が余ってしまったので間違えたかな・・・。余詰とは考えたくないのですが。
神谷 薫 作者のこれまでの龍追い作品群と同様に新味はありませんが、1サイクルをギリギリまで長手数とした枠作りや、良く読み込まれた収束の入り方といい、素材の仕上げとしてはかなりのできと思います。
須川卓二 散々回ってみたけれど、極上の謎は解けず。
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