[懸賞出題] 2手逆算してみようの結果発表です。
出題は創作初級以上を対象でしたが初級コースへの解答は1通もありませんでした。
結果発表は推敲の考え方や実装のテクニックなど勉強になると思いますので、「詰将棋創作チョー入門」に組み込むことにしました。
課題は次の図を改良してくださいというものでした。
金田秀信 詰棋界1953.7
25銀打、同桂、23銀不成、同飛、26桂、24玉、34金
まで7手詰
課題1:26桂を捨駒にしてください。
課題2:大駒捨てを入れて9手詰にしてください。
創作初心者の方は課題1、課題2をそれぞれ別々に実現してください。
中級者以上の方は2つの課題を同時に実現させてください。
まず課題1の模範解答として想定していたのは次の作品です。
北川明 詰パラ1961.4
28銀打、同と、26銀、同歩、29桂、同と、18金まで7手詰
3手目の局面で37銀が必要駒から邪魔駒になって、自ら26銀と捌く手順が小駒図式で表現されています。幼稚園担当の小西逸生氏は解説で、初心者用の出題でテールエンドは確実と思って出題したが、ベテランにも支持をされ見事に首位を獲ったとの記述をしています。
振り返ってみれば金田作の22飛も22歩にすることができます。
なぜ金田秀信が飛車を選んだのかはわかりませんが、想像すると図面の元気の良さでしょうか。
続いて課題2の模範解答は次の図でした。
中田章道『中田章道短編代表作』第22番 中日スポーツ1996.7.1
25銀打、同桂、13飛成、同桂、23銀不成、同歩、
26桂、24玉、34金まで9手詰
13桂を動かしてから13飛成とする–ウムノフのあしらいも見事で完成品と思います。
この2作を組合わせて、筆者が用意していたのは次の図です。
風みどり
13飛成、同香、25銀打、同と、23銀不成、同歩、
26桂、同と、15金まで9手詰
北川作の7手詰に☗〇〇(飛|角)☖同X の2手を逆算するとしたら13香を動かすことが考えられます。
捨てる駒は飛車か角ですが、飛車なら23銀、同歩とした後に13への利きが消えますからこれは飛車に決定です。
この案とまったく同じ解答を寄せてくださった方がお二方。
ぬ
13飛成、同香、25銀打、同金、23銀不成、同歩、
26桂、同金、15金まで9手詰
オオサキ
13飛成、同歩、25銀打、同金、23銀不成、同歩、
26桂、同金、15金まで9手詰
三段目に飛車を配すれば作意は成立しますが、問題は余詰の検討です。
13飛成と捨てずに25銀打、同(と|金)、23銀不成という筋が強力です。
この筋を詰まなくするために、風みどり作は41桂、ぬ作は42龍、オオサキ作は55角を配置しているわけです。
41桂が一番軽い駒のようですが、それは15の駒が金かと金かということに関係します。
例えばオオサキ作で55角ではなく41桂ですと、今度は初手から15歩と金を獲って余詰となります。風みどり作でも15とを金にすると同じく余詰です。
余詰防ぎの駒の軽さと15との不自然さ(特に歩があたっているので)とどちらを取るかという判断が風みどりとオオサキさんの感覚の差です。
ところでぬ作のように飛車を6筋まで遠ざければ15金としても大丈夫なようです。(11香ではなく12香なら初手13飛不成も詰まないようです)
ということで風みどり案とぬ案を合成した図も掲示しておきましょう。
さて以上は13飛成捨てを追加した図でした。
強力な飛車が盤面に配置されているわけですから余詰を防ぐ駒が必要になったわけです。
この飛車を捌き捨てではなく打ち捨てで実現した解答も届きました。
RINTARO
13飛、同香、25銀打、同金、23銀不成、同香、
26桂、同金、15金まで9手詰
RINTARO
12飛、同香、24銀打、同金、22銀不成、同香、
25桂、同金、14金まで9手詰
RINTARO
12飛、同香、24金、同飛、22銀不成、同香、
25桂、同飛、14金まで9手詰
捌き捨てより打ち捨ての方が簡単かというと、本図の場合13飛成ではなく13飛と捨てることになるので24玉の変化を詰むようにする必要が生じます。
そのためにまた追加の駒が必要になります。
RINTAROさんから3案届きましたが、上の2図は盤面8枚に抑えてあり高い作図技術がうかがえます。3案目は14金15歩が当たりになっているのが好ましくない配置なのでそれを34飛とすることで解消したものです。しかしこの飛を獲る紛れが強くなるため17銀26歩と配置駒が増えています。
さてその13飛に24玉の変化ですが15と(金)の形でないと詰まないようにできると気づきます。
それならばさらに2手逆算して、当たり駒で気になる配置であった15とを動かすことができるというのが次の解答です。
springs
15銀、同と、13飛、同銀、25銀打、同と、
23銀不成、同香、26桂、同と、15金まで11手詰
25とが15と往復する面白さも出ました。
一方で34銀は最初から邪魔駒になってしまいました。(なければ26桂で3手詰)
つまり34銀を消去するために論理を詰み上げるという作品に仕上がっており、金田作とはまた違ったナラティブになってしまったわけです。(実際に他人の作品からヒントを得て自作に昇華する場合はその方が望ましい)
次は13を埋めるのに角を捨てた解答です。
そんなことができるのですね!
松田圭市
13角成、同香、25銀打、同と、23銀不成、同香、
26桂、同と、15金まで9手詰
24角が13を押さえていますが風前の灯。24玉と取られる前に13を塞いでおかないといけないというしくみでした。
その代わりに初手15歩という筋が生じているので17飛という配置が必要になりました。
大駒捨てを逆算するのに、守備駒の移動の2手を追加するという方法もあります。
松θ拓矢
46馬、同飛、24銀打、同金、22銀不成、同香、
25桂、同金、14金まで9手詰
44飛が最終手の14金を阻害しています。そこで初手でこの飛車をソッポに行かせるのですが変化もありうまいです。このような逆算は通常駒数が増えていってしまうのですが三段目の飛車と異なり64馬には13玉への影響が弱いので盤面8枚で完成したのでしょう。
64馬の配置は少しでも紛れを増やそうとの考えでしょうが、その唯一の紛れ初手31馬で余詰が出てしまいました。(31馬、23玉、32馬、34玉、44銀成、35玉、33飛以下)
松θさん、修正図をお寄せください。
馬屋原剛
14飛、同玉、25金、同飛、23銀不成、同香、
26桂、同飛、15金まで9手詰
大駒捨てを玉移動に用いるとは驚きでした。
おそらく馬屋原さんのことですから似たような解答が来ない発想をと考えてこの順を選んだのでしょう。考えた順を実現してしまう作図力もたいしたものです。
深井一伸
16飛、同銀成、26銀、同成銀、24角、同歩、
27桂、同成銀、16金まで9手詰
大駒の捨て所はもう一箇所ありました。玉頭です。
15飛、同ととするにはと金の居場所がありませんので16飛、同銀成、となります。
初手が駒取りにならざるをえないのが残念なところです。
16桂を24に配置しても成立しています。
この場合は初手は純粋な捨駒になるのですが、24角が邪魔駒消去ではなく駒取りになってしまいます。34金は原作通り25歩でもよさそうです。深井氏はおそらく27桂に同成銀を限定させたかったのだと思います。
さて同じ発想の解答がもう1通ありました。
山咲優
35角、同香、47飛、同銀成、57銀、同成銀、
55角、同歩、58桂、同成銀、47金まで11手詰
大駒捨てをさらに増やして11手詰まで逆算しています。
元34銀も66角にしているので大駒3枚を捨てる作品に化けました。
47飛を駒取りにしないためには47(銀|金)の筋を逃れにするために右側にスペースが必要になります。さらにそのスペースを活かして35角を組み入れたということでしょうか。
本図が「改良」になっているかどうかは意見が分かれるでしょうが、若々しい力作でした。
さて次の3作は大駒捨てを冒頭ではなく、最終3手に持ってきた解答です。
もう一度課題を確認すると、「大駒捨てを入れて9手詰にしてください」とありますから、そのような解答も全然アリなのでした。
武田裕貴
45銀打、同桂、43銀不成、同飛、46桂、同銀、
24龍、同玉、25金まで9手詰
negitarou
66銀、同桂、64角、同香、67桂、同と、
45飛、同玉、46金まで9手詰
いずれも桂捨ての後を飛車捨ての3手詰にしています。
そりゃ大駒捨ては最後の方で打した方が盛り上がりますね。
やよい
35銀打、同桂、33銀不成、同桂、36桂、同馬、
34馬、同玉、44飛まで9手詰
本図は馬捨ての3手詰を収束に持ってきています。
実はほぼ同一手順の投稿も別の方から頂いたのですが、原作の「邪魔駒消去」も消えていたので返送しました。本作は44銀が邪魔駒になっています。
さて、残りの解答もあと2つ。この2つはいずれもベテラン作家からなのですが、ほぼ同じ図と言っていいでしょう。
ミーナ
26銀、同桂、16飛、同と、24角、同飛、
27桂、同と、16金まで9手詰
柳原裕司
26銀、同桂、16銀打、同と、24角、同歩、
27桂、同と、16金まで9手詰
ミーナ 自分でつくるなら、23飛はもっと軽い駒にします。
このように投稿図に添えてありましたから、23飛は原作に敬意を表しての配置のようです。
36歩は16飛という大駒捨てのための配置ですから、柳原さんのように24角で大駒捨てがあるからもうそれでいいじゃんと吹っ切れば、もしかすると同一図になったかもしれません。
柳原裕司 手頃な課題で仕事中に考えたりするのが楽しいです。課題をクリアしているのかわかりませんが、自分ならこうまとめる、という図です。
さて短い募集期間だったにもかかわらず、たくさんの解答応募ありがとうございました。
さて、ここで最後に原作者の金田さんの気持になって振り返ってみたいと思います。
金田さんの作風はあくまで形美しく、手順もさわやかで解答者に楽しんでもらおうというものです。飛車を1枚捨てるからといって余詰防ぎの駒が1枚必要になったらおそらくその案は捨てるでしょう。
そう考えると中田章道作や北川明作には「やられたなぁ」と感じるかもしれません。解答のなかでは柳原裕司作ですが、銀でなく角に替えたことで感触がやや変わっているので悩むかも知れません。
いや、幸福の科学ではないので、人の気持になって考えるのは難しいですね。もうやめます。
さて最後の最後に賞品の分配ですが……風みどりの独断で決めます。
一番オトナの解答をくださった柳原裕司さんに『金田秀信作品集』を。
一番若々しい解答をくださった山咲優さんに粗品を。
もう一つは松θ拓矢さんの予定でしたが余詰が見つかったので残念!
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(追記)2022.10.15
こんな感じになった。
ちな26桂を捨て駒にしても作意は8手目24玉にする方が好み。 https://t.co/ozwWLZiKmK pic.twitter.com/Vs8JOyx4sq— 天月春霞☗詰将棋Vtuber (@amatsukiharuka) October 14, 2022
Tweet手数が合わなかったので違うかとは思ってたんですが、やっぱり間違ってました笑 pic.twitter.com/8RaFHqjtU7
— 歌を忘れたカナリヤ (@boku_ikiron) October 14, 2022
当選ありがとうございます。
いろんな作り方があり、とても勉強になりました。このような肩の凝らない企画をまたお願いします。
他人様の作品を勝手にネタにするのは憚れるのですが、ちょうと今『金田秀信作品集』を編集していて、この作品は北川作よりも中田作よりも古いんだよということを主張しておきたかったのです。
また、「詰棋界」に素材として提供された作品とメモがあったのも本作を選んだ理由です。(何の素材かは不明)
また別の企画を考えていますので、お楽しみに。