詰将棋雑談(86) 詰パラには「合」があった

話を一番最初から書くと、あるゲラに某氏が次のように赤を入れたのだ。

某氏はつい最近まで詰パラの担当を務めてきた現役バリバリの方なので間駒には「合」と注釈を入れる気が満々のようだ。

オイラは長編詰将棋の世界という連載を読んでくださっている方はご存知のように、かつて詰パラで担当を務めたことがある。でも、一度も「合」なんて書いたことはなかったなぁ。
こないだの山崎健作でも……


この10手目の28飛は間駒だ。

ちなみに生原稿(?)はこれ。

ところが、はっと気が付いて印刷されたものをみてみた。

ちゃんと「合」が入っている。
オイラが原稿に書かないので、組版担当の殺し屋須藤さんが黙って「合」を追加してくれていたのだ。
昨日までまったく知らなかったのだから、オイラもいい加減な男だとちょっと自覚した。
手間をかけてしまってすみませんね。と、今更ながら形だけでも謝っておこう。

つみき書店の詰棋書の作意手順には「合」の文字は出現しない。

つみき書店の本では棋譜に「合」を使うのは2つの場合だけ。
一つは間駒が何でも良い場合。
31飛成、21合、22金まで……みたいな場合だ。
もう一つは変化を説明する場合にわかりやすくするため。
イ31金合は22金まで……みたいな場合。これは最初は入れていなかったが、校閲者の方から「合」があった方がわかりやすいと指摘されて従っている。

なんでこのようにしているかというと、「合」ってよくわからないので間違えやすいからだ。

ちなみに将棋の家元の日本将棋連盟に「棋譜の表記方法」という頁がある。

読んでみると判るが、「合」という言葉はでてこない。

そこで将棋世界誌の詰将棋サロンを確認してみたら、「合」は入っていなかった。

近代将棋誌にはあるというので、詰パラオリジナルということではなさそうだ。

単行本ではどうなのだろうといくつか調べてみたら、野口文庫はある。マイナビ・マイコミはあったりなかったり。編集者次第なのかな?
『詰将棋サロン名作選』がどうかとドキドキして調べたら……なかった。

若島ブックス『この詰将棋がすごい!』は原稿を書いた人次第。オイラの書いたところには「合」はないけれど、他の方の原稿にはあるものもある。特に統一しない方針のようだ。

先程、オイラは「合」はよく分らないので間違いやすい、と書いた。
「合」とはどういう意味なのか、どこにも説明がないから各自で勝手に解釈しているというのが現状だろうということだ。

実際オイラも「合」を入れるべきかどうか判断しろといわれたら分からないケースがままある。
そして、棋譜の表記に「合」は不要だ。だったら全部無くしてしまった方が良かろうという判断をしたのは当然だろう。

(上図は詰将棋ではありません)
44飛と王手したところ。

もし作意手順が「34香合」と書かれていたら、打つのか動かすのか、悩みませんか?
もしくは解答が「34香合」だったら採点に困りませんか?

棋譜の表記方法に従っていれば、「34香」だったら移動合と分かる。
「34香打」だったら打合なんだなと何も迷うことはない。

(上図は詰将棋ではありません)
仮にこの図から14角、23飛、43香、42銀……と進むとして、「合」をどことどこにつけるべきか悩みませんか?
14角、23飛合、43香合、52銀合……が論理的には正しそうだ。
ですが43香合とするべきなのか双玉もかなり歴史を重ねてきたが、現在どのような慣習になっているのかオイラにはわからない。
(攻方順には「合」はつけていないような気もするが、つけたほうが分かりやすい狙いの作品もあったりするな。わかりやすいから「合」をつけるというのなら攻方手順にもつけるべきだろう)

ここからの話は詰丸子さんに教えていただきました。
詰パラの1994年1月号を持っていない方も多いと思いますので紹介します。

これは元々は当時の短大担当の宮地寛さんが詰パラ1993年7月号の結果稿で、次のように作意手順を記述したことが始まりだ。

6手目に「33桂合」とある。(また紛れ順に「33桂打合」とあるので、6手目は移動合なのだと推理できる)

次の切り抜きは詰パラ1993年11月号の読者サロン。

この「33桂合」という記述で読者が混乱し、「間違っているのではないか?」と指摘された。
宮地氏は

「合」という字に「打つ」という意味はない

ので移動合にも「合」をつけるのは間違っていないと考えている。
そういわれれば確かにそうだ。
そして逆に「合」に「打つ」という意味が付属するのならば……

上図で19香に「12金合」と書いたならば、打合の意味になるはずだ。「打」は不要になるのではないか。
さらにさらに、それなら移動合のつもりで「12金合」と書いた解答があれば誤解になってしまうのかと採点基準にも「合」のお陰で悩んでいる。

そして当時の編集長柳原裕司氏のコメントは以下の通り。

①1とは打合、②は移動合の場合だ。

ところが更に翌年の詰パラ1994年1月号でこの見解がひっくり返る。

多くの方から「合=打つ、が慣習になっている」と指摘され、持説を取り下げた。

つまり「合」については詰パラの担当者も編集長も共通認識を持っていないという事例だ。
こういう慣習は無くした方が良いと考えている。

柳原さんも

解答者の皆さんは「合」は一切使わないことをお勧めします。

と書いている。下手に「合」と書かれると採点に困る場合があるからだ。

つまり詰パラに記載されている作意手順をそのまま解答に書くのは勧めないということだ。
でも、それっておかしく感じるのはオイラだけだろうか。
初心者は作意手順を読んで、解答の書き方を学ぶものだ。

「合」という表記は読者に分かりやすくするためのものなのだが、実際には混乱を生じさせてしまっている。
解答に「合」を書かないように勧めるのならば、記載する作意手順にも「合」を書かないようにするのが正しいと考えるのである。
(まぁ、今の編集長は柳原さんではないのだけどね)

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