長編詰将棋の世界(29) 攻方主導の三段馬鋸

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

選題の言葉(2011.2)

 在庫の中で最も多いのが馬鋸作品だ。
 馬鋸は仕掛けが比較的簡単でバリエーションも多いということがその理由だろう。アレンジしやすいのだ。
 解答者の人気も高い。無駄合について甘く理解されるのも、馬の雄大な動きが人気だからと理解している。
 しかし馬鋸作品もすでに数が非常に多い。誰もがこれは新鮮だと目を見張る作品を創るのは厳しくなってきた。
 今月はそんな閉塞的な状況を打開すべく期待の若手二人が立ち上がる。新鮮味を求めるアプローチの方向がまったく違う所が見物だ。
 いずれも作者の工夫が解れば収束は平易であるので、多数の解答を期待しています。

馬屋原剛 詰パラ2011.2

棋譜ファイル

11金、22玉、31香成、33飛、A21成香、32玉、
B65馬、43飛、C31金、42玉、75馬、53飛、
{D41金、32玉、E31成香、22玉}=
66馬、33飛、21成香、32玉、76馬、43飛、
31金、42玉、86馬、53飛、
77馬、33飛、21成香、32玉、87馬、43飛、
31金、42玉、97馬、53飛、
88馬、33飛、21成香、32玉、98馬、43飛、
31金、42玉、97馬、53飛、
88馬、33飛、21成香、32玉、87馬、43飛、
31金、42玉、86馬、53飛、
77馬、33飛、21成香、32玉、76馬、43飛、
31金、42玉、75馬、53飛、
66馬、33飛、21成香、32玉、65馬、43飛、
31金、42玉、64馬、53飛、52成銀、同玉、
63成銀、同飛、同馬、同玉、72銀不成、ニ同玉、
82飛、同玉、81飛成、93玉、48馬、75歩、
同馬、同香、94歩、同玉、95歩、同玉、
96歩、同玉、99香まで119手詰

A 同馬は同玉、32成香、44玉、45飛、54玉以下不詰
B 31金は43玉、33馬、同玉、32金、同玉以下不詰
C 同馬は同玉、42金、同玉以下不詰
C 31成香は22玉、66馬、13玉、25桂、24玉、57馬、46歩以下不詰
33玉は55馬、44飛、45桂、42玉、41金、32玉、31成香、43玉、65馬、54飛、同馬、銀、43玉、42金、33玉、32金、44玉、45飛、54玉、55飛、44玉、53飛成、35玉、55龍、
36玉、45龍、27玉、25龍、26角、同金、同桂、36角、17同玉、53飛以下
D 同馬は同玉、51飛、44玉、55飛成、33玉で不詰
43玉は53馬、同玉、52成玉、18歩、同桂成、27龍まで
E 76馬は33玉、66馬、43玉、65馬、44玉以下不詰
33玉は25桂、44玉、53馬、同玉、52飛以下
74玉は75歩、同玉、48馬、86玉、83飛、85歩、同飛成、同玉、81飛成以下

☆作者名から(?)馬鋸であることは明らか。その目的も98歩の入手であることも予想できる。ところがこれが簡単ではない。

斎藤博久 馬鋸で98の歩を取るまでが大変。
名越健将 1日考えてやっと馬鋸開始。馬の動きがやや気に入らないが、とりあえずは98歩を拾って戻ってくるところ。何の為に?右辺でまとめようとすると失敗する。平易な収束には違いないが、最後に全ての謎が氷解して、万々歳。
武田静山 馬鋸は変化読みも含めて軌道に乗るまでが大変。

☆一体どこが難しいのか。まずは状況を確認しよう。玉方の持駒は歩だけ。そして歩合が効くのは1,4,6,7,8筋。勿論重要なのは4筋だ。基本的に馬の王手には逃げるか飛車の移動合しか選択の余地がない状況ということだ。

☆初手11金に13玉と逃げると25桂24玉46馬で簡単に詰んでしまう。同玉は32香成で金合しかない。したがって22玉に31香成で舞台が早くも整った。

☆ここで斜めのラインに名前をつけておきたい。11-99ラインを\(x-y=0\)であるから-0ライン。21-98ラインを\(x-y=1\)であるから-1ライン。13-79ラインを\(x-y=-2\)であるから–2ラインと名付ける。

☆98歩を食べるためには-0ラインと-1ラインの馬鋸がまず考えられる。成香を左右に動かすことによって玉を22と32に移動させることができるからだ。ところがこの方針は失敗する。紛れCがその理由だ。43飛の形で-0ラインの王手をすると13玉と逃げられ、2手目の変化とは違い46歩と合駒されて窮する。

☆次に考えられるのは-1ラインと-2ライン(31-97)での馬鋸だ。41の金を左右に動かすことで、玉を32と42に移動させることができるからだ。ところがこの方針も不首尾に終わる。紛れEを研究されたし。53飛の形で-1ラインの王手をすると33玉とここから逃げ出されるのだ。24に潜られた時の為に–2ラインの王手をするべく66馬とするよりないが、43から44とぬらりくらりとかわされて手が尽きる。

☆それでは如何にして馬を98まで運ぶのか。正解は-0から-2までの3つのラインを総動員しての三段馬鋸なのである。

須川卓二 結構ぎりぎりの所で成立している感じがします。もっと凝った風にも出来そうですが、これはこれで完成された作品。
池田俊哉 趣向部分が大きく盤面を使ってしまうが、残り部分でうまく変化と収束をまとめている
加賀孝志 49手目歩を取り馬鋸落りかえし。収束の飛角の捌き苦労したでしょうね。楽しめる作品になりました。

☆作意を見つけるだけなら、優れた嗅覚だけでも可能だ。しかし創作するとなるとかなりの難度だ。飛車が常に質駒の状態であり、玉は殆ど無防備の状態。さらに–2,-0,-1,-2のラインには駒も置けない利きもまずダメ。これらの厳しい条件の中で例えば紛れDと変化ロは41金と31金の差異だけで不詰と早詰を切り分けなければならない。馬を処分し、封印していた飛角を働かせ、飛車短打の捨駒の収束を得たことは作者の優れた創作技術と根性の証明である。

作者 遮断駒1枚での三段鋸は初めてだと思う。その特徴は二段馬鋸にするか三段馬鋸にするかの選択肢を攻方が握っていること。

☆過去に発表された三段馬鋸はすべて「逃げ方を考える」作品なのに対し、本作は「攻め方を考える」作品だ。今までに無いものを創るという作者の鮮烈な想いが眩しい。

野口賢治 馬鋸に対してすべて飛の移動合で受けるのが新味。49馬を起こしての収束も謎が解けてスッキリ。
永島勝利 馬のコースが面白い(でもこれって馬鋸?)。また収束も良い。
神谷薫 横型⇒縦型が無理なく表現されているのが素晴らしい。(もしかすると作者の狙いは飛の移動合回数の方かもしれませんが)舞台装置は殆ど残しますが82飛短打での簡潔な収束も分かりやすくて楽しめる。
竹中健一 三段階だったり(往路)違ったり(復路)、確かに不思議な馬鋸だ!収束や右下が捌けないあたりに不満はあるものの、うまいと感心させられる作品です!

☆新しい物を苦労して生み出しても、それが解答者の評価に真直ぐに反映するとは限らない。伯楽の現れることを信じ、作者は「新作」の創作に直往邁進されたい。

鈴木孝太郎 太い丸太も切れそうな馬鋸ですね。ただ、合駒を無くす関係か多くの駒が使用されているのが少し気になる。
鈴木彊 馬鋸で1歩補充する中で底金と成香の移動と移動飛合の組み合わせが入り面白い趣向であった。収束も飛捨てに眠っていた馬で2歩を補充して決めるなど見事なものであった。
宮本慎一 玉の引越し。9筋でつかまる。
賀登屋 復路の馬鋸の縦移動が面白い。
和田登 一歩千金、馬鋸を終わってからも難解だった
国兼秀旗 金智恵の輪×往復三段馬鋸の趣向は目新しい印象がある。歩を取りに行く往路は横移動、玉に接近する復路は縦移動と馬鋸の軌道を変化させるのはちょっと面白い。
今川健一 行きはは横ずらし、戻りは縦の三段馬鋸。何処から収束に入るかが難しい。48馬で思いがけなく手にいる一歩、こいつぁ春から縁起が良いぞ。

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