長編詰将棋の世界(31) 龍で回転追いの最中に歩香重ね打ち

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

選題の言葉(2011.3)

 車寅次郎という男が主役の「男はつらいよ」という映画がある。全48作。この映画を毎年正月休み、元日の早朝に観るのを楽しみにしていた。といっても映画のストーリーを楽しみにしているのでは無い。映画を観るというのではなく、年に一度、寅さんに「会いに行く」という感覚だった。
 ここ数年、楽しみにしているイベントがある。詰将棋解答選手権。いい成績を取ってやろうというのではない。年に一度、上田作品・若島作品に会いに行くという気持ちだ。今年も年に一度の逢瀬を愉しみに出かけるつもりである。
 今月は上田・若島級に成長する事が期待される龍虎の対決だ。決して見逃す事なかれ。

廣瀬崇幹 詰パラ2011.3

棋譜ファイル

32歩、21玉、41飛成、12玉、13歩、同玉、
11龍、12桂、14銀、同玉、12龍、25玉、
15龍、34玉、35龍、43玉、44龍、32玉、
33歩、31玉、32香、21玉、41龍、12玉、
13歩、同玉、11龍、12歩、25桂、14玉、
12龍、25玉、15龍、34玉、35龍、43玉、
44龍、52玉、53龍、41玉、31香成、同玉、
51龍41桂、43桂、21玉、41龍、12玉、
13歩、同玉、11龍、12歩、25桂、14玉、
12龍、25玉、15龍、34玉、35龍、43玉、
44龍、52玉、53龍、41玉、42歩、31玉、
51龍迄67手詰

41銀は53角成、21玉、41龍、12玉、13歩、同玉、11龍、12歩、25桂、14玉、12龍、13歩、同桂成、25玉、26銀、34玉、23龍、同歩、35香迄、

☆序盤は一本道。8手目の合駒から考えてくださいという仕立てだ。さらに14銀、同玉、12竜の進行が絶対だとするとまた合駒。気の弱い方はもう逃げ出したくなるかもしれぬ。

☆12の合駒はXとして、12竜13合の局面をじっと眺めると、24桂の配置が25桂と打てと教えてくれている。つまり13合はなんであろうと、同竜同玉15香から25桂で詰むのだ。

☆12竜には合駒せずに25玉が正解とわかった。13玉の際に持駒に桂香があれば詰という事もメモしておこう。

☆途中図は15竜から35竜、44竜と追ったところ。52玉は53竜から43香~42香成と追い、もう1周すれば良いので32玉と逃げるのが正しい。

☆素直に追ってみよう。33香、21玉、41竜、12玉、13歩、同玉、11竜、12Y、25桂、14玉、12竜、25玉、15竜、34玉、35竜、43玉、44竜、52玉、53竜、41玉で次図となる。

☆この局面に至り合駒Xが桂、Yは歩とわかる。一方でこれは失敗図だ。この打歩詰は打開不可能。そして本作のテーマも明らかになった。この失敗図における33香を33歩に置き換える魔法が本作のテーマだ。

☆そのための第一歩が途中図で33香でなく33歩と打つことだ。回転させるパワーが弱いような気がするが、21玉は41竜から32歩成がある。持駒に香が残っていると13玉といけなかったことを思い出そう。したがって31玉とごねる。局面を進めるには32香とするしかない。

☆ここで昨年の森敏弘作を思い出した方も多かろう。33香1枚ですむところを33歩32香と重ね打つ非効率。不思議な手順が実現した。

名越健将 出たァ、歩香重ね打ち!
加藤清隆 龍の回転趣向作。1周目の歩香重ね打ちが打ち歩詰め打開の妙策。2周目の41間駒の変化もなかなか手強い。

☆ぐるりと回ってくると41玉の位置でやはり打歩詰。しかし失敗図と異なり、打開可能だ。31香成から51竜~43桂と追うことができる。更にもう1周してくると…。

中瀬俊昭 43手目51龍に対する合駒の選択が最後の山場。ここを乗り越えればゴールは目前に。

☆銀合の変化イがスパイス。

☆ご覧の通り33香が歩に変わった。魔法の完成である。

☆趣向作というと退屈な繰り返しで、ただ手数を伸ばすだけ、魅力に乏しいと誤解している方がいる。そういう方に是非本作を勧めてみたい。謎解きと楽しい回転龍追趣向が見事に融合している。配置に荒削りな印象はあるものの手順内容で即採用決定となった。

作者 変化紛れが無く易しいので狙いがダイレクトに伝わってくれるといいなと願っています。

今川健一 竜追いの中に歩香の重ね打ちの謎を潜ませる。易しい伏線?だが巧みな作品です。
小川千佳夫 解きながらは間駒選びが煩わしいと感じていたが解いてみると計算し尽くされた美しさを感じる。

☆作者は長編創作は初めてとのこと。早く次の作品を見てみたいものだ。

野口賢治 32香を使わされると14歩が鬼門となるとは…油断大敵。
原雅彦 33香だと打ち歩詰めになるので35香34銀が筋ぽく見えましたが
鈴木章夫 33歩と打ってから32香とは…
和田登 33歩から32香の重ね打ちが地味ながら絶妙の手順
神谷薫 回転数は少ないが左辺での折り返し位置が複数存在し、単純な繰り返しになっていないので最後まで楽しめる。
武田静山 グランドを1周余計に走らされた。
加賀孝志 グルッと3回転。邪魔になった香歩を捌く。不動駒が気になりますが、楽しめる作。難易ではありません。
昭和三十六才 桂合、歩合をしながらミニサーキットを3周。
斎藤博久 桂を最大限に利用した龍追い。
池田俊哉 こじんまりした回転龍追い3周だが、33歩-32香のような重ね打ちが出てくるところが楽しい
永島勝利 昨年8月の院3を何故か思い出したので、歩香の重ね打ちは第一感でした。この手の作は左辺の面倒な折衝を含みにする事が多いのですが、これはその辺はスッキリしていて解後感が頗る良好。
小林徹 数回いじくり回すとおよそのものが見えてくる。後は合駒を順に決定していけば解に至る。
宮本慎一 飛と玉のいたちごっこ
竹村孔明 普通に攻めれば詰んでしまうので多分うまい受けを見落として間違えているのだと思います。
中沢照夫 不利感たっぷりの歩香重ね打ち。ずっと先の打ち歩を解消する。
鈴木彊 龍と桂で追う展開は面白いです。19手目33香とするのは打ち歩詰めの罠にはまる。33歩から32香がこの作品のポイントで、これが後に31香成として生かしているのはうまいです。44手目41銀合もあるが早詰めとなる。41銀合のとき、25桂で追ったとき12龍に13歩合いが効くと面白いのだが余詰となる。
須川卓二 規則正しいんだか不規則なんだか分からない回転型という分野の作品でしょうか?33歩~32香とは面白い手順がよく入りましたね。
竹中健一 途中の33歩~32香が面白い筋ですね、楽しく解けました!
鈴木孝太郎 変化で13に竜を捨てると桂香で詰むことが判ると後は容易でした。歩打ちの頭に香と打つ手順は最近見たような気がしたが・・
国兼秀旗 歩香の重ね打ちが見えづらかったが、しばらくしてから見てみるとこれが当然の一手に感じられるのが不思議だ。

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