詰将棋入門(232) コンパクトな打歩誘致

上田吉一 詰パラ

ときどきこの連載は入門なのに難しいと批判されることがあるが、今回は大丈夫。易しい9手詰だ。

まずは普通に攻めることを考えたら龍を働かせることを考える。

53龍、

この攻め、意外に強力だ。
例えば43桂合なら同銀成、同歩、25桂まで。
飛金銀ももちろん簡単。
43香合なら同銀成、同歩、34香、同と、32銀成まで。

しかし移動合が残っている。

   43歩、

続けると……

同銀成、同と、

【失敗図】

34歩で詰みには違いないが、ご存知打歩詰。禁手だ。

ここで発想の飛躍が必要だ。
この図でもし53龍が一間離れていて63龍だったらと考える。

これなら打歩詰ではない。

34歩、42玉、52龍まで7手詰

【変化図】

これで初手が判明した。
わざと玉と距離を取るソッポ龍が正解だ。

63龍、

そこで玉方の打歩誘致手筋が登場する。

   53歩、

中合によって龍を近付けて将来の逃げ道となる42の地点を自ら塞いでしまおうという意味だ。
これは同龍と取るしかない……でも

(53)同龍、43歩、

【変化図】

先程は43銀成、同ととしたので打歩詰になったが、この局面で歩が打ててしまう。
34歩、同と、32銀成まで7手詰だ。

つまり53歩の中合は単独では意味をなさない捨駒で、次の手と組み合わさって初めて効果を発揮する複合手筋ということだ。

(53)同龍、43と、

取歩駒である44とと43と移動合することでセルフピンし、34歩を打歩詰に誘致する手筋。
強力な守備駒であると金を自ら殺してしまうという非常(情)手段。

これを同銀成では、今度こそ打開不能な打歩詰に陥ってしまう。
今度は攻方が好手を出すターンだ。

44龍、

龍を捨てて、と金には元の位置に戻っていただく。

   同と、

あとは変化でも何度も出てきた退路を塞ぐ形。

34歩、同と、32銀成まで9手詰

龍のソッポ、中合、移動合、龍捨てと攻守の好手がみっちり詰まって無駄が一切無い仕上がり。

また人によっては初形と6手目の局面を比較して、52龍を持駒の歩に変換するというナラティブを読取るかもしれない。

このナラティブという用語は筆者がこのブログで使い始めた。
「ストーリー」でも構わないが、ちょっとニュアンスが異なる。
ナラティブは解答者や鑑賞者が読取るものだ。
それは或いは作者の意図とは異なるかもしれないが、それは発表された芸術作品には避けられない運命。
おそらくヒトの脳が物事を理解する仕組みに関係していると思うのだが、「人には物語が必要なのだ(S.ハンター)」。

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