既刊10冊をふりかえる

 ISBN出版社の登録申請をする際には7桁にするか6桁にするかを選ぶことができる。7桁だと22,000円。6桁だと40,700円。どういうことかというと全体の桁数は決まっているので、出版社名で7桁使うと書名には1桁しかつかえない。0~9の10冊しか登録できないわけだ。6桁の場合は書名に2桁使える。すなわち00~99の100冊を発行できるということだ。長考10秒で6桁を選んだ筆者は、死ぬまでに100冊の本を出版しなくてはいけない。なぜなら、40,700円払ったのに勿体ないから。

2019年 Limit 7

使用駒7枚以内の詰将棋傑作アンソロジー
 風みどり編
 解説:飯尾晃、佐藤和義、小池正浩、小泉潔
 400局収録。152頁。2200円(税込)

 最初に出した本なので思い出も数多い。
 T-Baseの意義はそれを活用した本が編まれてこそだという考えから「使用駒7枚以内」のアンソロジーに決めた。10,000局を並べて1,500局まで絞るのが大変な作業だった。そこからは飯尾さんと佐藤さんに手伝ってもらったが、それでも1,500局を採点するというのは膨大な作業だ。
 解説を書く段階で小池正浩さんにも入ってもらった。小池さんはいまやあちこちで引っ張りだこの人気者だ。
 装丁は今までの詰棋書とイメージを変えて、一般読者に手に取ってもらいたいという希望から、ネットで探した将棋は知らない女性に依頼した。最初、指が6本あったのは修正していただいたが、駒の持ち方はこのような持ち方も不可能ではないのでOKをだした。色使いなど筆者では絶対に想像もできない仕上がりなので満足している。
 収録作家で連絡先が判明した方には1冊ずつ送ったが、まだ75名の方は送り先不明。ここらへんがアンソロジーのスッキリしないところ。
 1000部刷ったが506部売れて、収支は+21,226円。あと25冊くらい売れたら、自分の分の印税が支払える。

2020年 野村量の詰将棋560

 野村量詰将棋作品集
 解説:小林敏樹、飯尾晃、小池正浩、竹中健一、池田俊哉、有吉弘敏
 562局収録。280頁。2200円(税込)

 仕事を辞めて、正式につみき書店として活動を始めて最初に作った本。野村さんと植田さん近藤孝さんを考えていて、野村さんに連絡を取ったらOKを貰えた。3手詰以外の作品が約1500局。すでに560局が選ばれてノートにきれいに清書してある。なんて素晴らしい。
 解説陣には『Limit7』のスタッフに加えて小林敏樹さん、竹中健一さん、池田俊哉さん、有吉弘敏さんに手伝ってもらう。装丁は鈴川さん。
 『Limit7』にはたくさんの誤植があった。一番数多く指摘してくださったのが関半治さん。そこで本書は関さんにゲラを送りつけて校正をお願いした。おかげで本書の誤植は2箇所だけ。(いずれも関さんには送らなかった部分)
 同一図の先行作が2作見つかったので第2刷では2問は欠番とし、4問追加して564番まである。
 1200部刷って現在921部売れている。つみき書店の一番の優等生。収支は+480,000円。あと120冊売れたら2刷200部の印税をお支払いするので解説者の皆様はお楽しみに。

2021年 怒濤

 山本昭一詰将棋作品集。
 解説:平井康雄
 86局収録。120頁。1500円(税込)

 復刻本第1弾。山本昭一とは『詰将棋の詩』で編集者と印刷業者というつき合いだったが、筆者の詰将棋の師匠の一人であり兄貴分のような存在。2002年に若くして亡くなった際に創棋会が立派な追悼作品集を作ってくれた。
 しかしここだけの話、筆者はちょっと不満だった。一つは和綴じ函入りと立派すぎて3000円と高い。もう一つは全体的に追悼の雰囲気が強くすぎて「暗い」、そして作品評価にも疑問が幾つか。そこで半額の1500円で改訂新版と銘打って制作した。作品評価についても例えば旧版の54番と新版の77番を読み比べて貰えれば理解いただけると思うが、かなり改善できたと自負している。
 元の本があるのに、制作は非常に大変だった。gmailの怒濤フォルダに残っているメールの数は393通。苦労した成果はあっただろうか。装丁や空白を彩るカットは山本昭一さんの娘さんによるもの。
 1000部刷って386部売れている。収支は-27,000円程度。あと30部ほど売れたら印税もお支払いできます。旧版を持っている方も絶対に買って損はないのでよろしくです。

2021年 増補新版すなどけい

 松田圭市詰将棋作品集
 新書版。150局収録。160頁。1500円(税込)

 こちらも復刻版。横書きなのに何故か右綴じの不思議な本があって、100局だったのを150局に増やして増補新版として制作した。200局にしてくれと頼んだが、駄目だった。
 スマートレターで送れるサイズで詰将棋がたっぷり詰まった本を作るというのが基本の姿勢だが、本書は新書版の可愛らしいサイズ。すべてCloudLaTeX上で作った。
 不思議なことにこの本についての記録が残っていない。つみき書店ノートにも頁がないのだ。

 作者の松田さんは詰将棋つくってみたにも作品を投稿してくれる。本書の販売推進のためだそうだ。ありがたい。そのおかげもあってか、800部刷って、443部売れている。すでに収支は+96,269円。このサイズの本は場所を取らないのがなんといってもありがたい。(それに軽い)このシリーズの本をもっと増やしたい。今、1冊は進行中。筆者の『いっこの積木』もこのシリーズでいこうかな。
 装丁は筆者の友人に頼んだ。やはり女性で将棋は多分知らない。流線型の謎の生物はワニだそうである。

2022年 飛角図式

 江口伸治詰将棋作品集
 解説:池田俊哉、佐藤和義、竹中健一、風みどり
 150局収録。140頁。2000円(税込)

 ある日突然電話がかかってきた。(大体電話は突然かかってくるものだ)
 「熊本の江口です。作品集を作ってもらいたい」
そういう内容だった。どうやって筆者の電話番号を知ったのかわからないが、これは「わかりました」と返事をする一手だろう。
 T-Baseを使って発表作をまとめるところから作業する。飛角図式が126局、その他が16局。編集作業をしている間に次々と新作や改良図が送られてくる。結局、飛角図式のみ150局でまとめることになる。したがって若いときの塚田賞受賞作は収録されていない。
 後で金田543でさらに苦労することになるが、飛角図式もみな似た図面なので選定作業は苦労した。これだけ数多く飛角図式を創っていると、自分でも気づかずに同じ図を作ってしまうこともあるようだ。左右反転されていたり、2手つけ加えたりした図が混じっていて、編集作業も終盤にいたって103番と104番が同一図だと気づいたり……。
 難解作が多いので解説陣は強豪を揃えた。池田俊哉さん、佐藤和義さん、竹中健一さんとくれば納得されるだろう。また今まで作意手順しか記載していなかったが、本書から変化も詳細に載せることにした。先日、ある方から「『Limit7』は芸術的な解説は書いてあるけどこう逃げたらどう詰むかのの説明がない」とお叱りを受けた。『飛角図式』はその点しつこいくらい変化を詳しく載せてあるので、是非お買い求めください。
 800部刷って今までに売れたのはちょうど300部。収支は-72,945円。

2022年 詰将棋つくってみた2021

 風みどり著
 参加作家66名。
 Judge:小林敏樹、有吉弘敏、飯尾晃、武島広秋、久保紀貴、岡本眞一郎、近藤郷、太刀岡甫、角建逸、風みどり
 221局収録。208頁。書籍版:1500円(税込)。PDF版:1000円

 詰将棋つくってみたにはベテラン・中堅作家からも投稿をもらうことがあり、せいぜい数百人しかに見て貰うだけでは終わるのはもったいない作品もかなりある。そこで1年分をまとめてpdfの本にまとめることにした。玉石混淆だからあまり売れはしないだろうけども、pdfで収録作家に配るだけなら赤字にはならない。
 その結果、とてもユニークな本ができたと自負している。つまり出題篇は総ての詰将棋221局を手数順に並べてある。解説篇はブログのとおり課題別になっている。つまり解きたい人にも読みたい人にも満足できる1冊になっていると思うのだ。
 隙間を埋めるカットは、いままではフリー素材を使わせてもらっていたが、この本では自分で描いた。

 紙の本も欲しいという要望に応えて、amazonKDPを始めて使ってみた。これはオンデマンド出版というもので、要は印刷ではなくコピーを製本してくれるという仕組み。品質は劣るが在庫を持たなくて良いし、事前に印刷・製本の費用がかからない。そして著者には著者コピーとして印刷原価で売ってくれるから、それを販売することができる。
 今まで著者コピーは71部作ったのだが在庫数から考えて43部売れた(らしい)。amazonでも71部売れた。こちらの入金は合計639円。(1冊売れて9円だから)今年になって印刷原価が100円近く上がったので、値上げしないと赤字になるというので値上げした。今のところ採算は-16,420円。Kindleでも売り出したら2冊売れたので、STORESでのpdf販売は近いうちに止める予定。ご購入は今のうちにどうぞ。

2023年 金田秀信の詰将棋543

 金田秀信詰将棋作品集
 解説:有吉弘敏、飯尾晃、小池正浩、小林敏樹、穂上武史、風みどり
 543局収録。260頁。2500円(税込)

 金田秀信の作品は大好きだが、作品集は7冊も出ているし、つみき書店で作ろうという気持ちはまったくなかった。この本は角建逸さんからもちこまれた企画だ。詰棋書の制作といえば実績も実力も角ブックスだから、彼の所にはさまざまな案件が持ち込まれてくる(らしい)。そのほとんどは断っているようだが、いろいろな事情から断り切れずに結果的に抱えてしまっている案件も多い(ようだ)。そういうのはココロの負担になるから、少しでも手伝えのならと引き受けた。『○○の詰将棋500』シリーズにピッタリの素材ではあるし。
 それにしても『飛角図式』同様、なんの原稿も資料もない所からのスタート。
 ちょうど『飛角図式』と並行作業になったので、解説陣もわけた。ここで穂上武史さんを復活させたことはマニアなら筆者の功績として認めてくれるだろう。麗筆は健在だということは本書をご購入の上で確かめられたい。
 編集作業は先にも書いたが大変だった。当初は『野村量560』と同様に発表順の予定だった。ところが一つの作品の改良図・修正図が次々に現れてくる。どれを最終図とするか。その図の発表年月をいつにするべきか。なかなか作品の配列順が安定しない。そこで編集作業の中盤に、掲載を発表順ではなく、手数順・駒数順に変更した。おかげで解説執筆者の方々には迷惑をかけた。申し訳ないです。
 金田さんと初めてお会いしたのは解説原稿も出そろった2022年の6月。ここで版形や部数、掲載順について了承をいただいた。また作意手順はT-Baseからのものなので、正しい作意かどうかのチェックを依頼した。その後勝浦先生に序文を依頼したり、ご本人には難しそうなのでスタッフに余詰作の修正図を依頼したり……そこまでは割と順調に進んだ。
 動きが止まったのはその後だ。(作意チェックの返事もなかったが)、余詰作の修正案–43局の可否を金田さんに送ったが、その返事が一向に返ってこない。10月末を締切にしたのだが12月になっても返事がない。電話しても直接家を訪ねても出ない。そして4月になって既に2月に亡くなれられていたことを知った。
 これで一時は出版を諦めた。膨大な時間をかけてきたが、仕方がない。
 角さんから「出版しちゃおう」と声をかけていただいたのはいつだったか、記憶にない。どうせなら7月の全国大会に間に合わせたいと急に忙しくなったことだけは覚えている。しかしその拙速が失敗だった。余詰修正図の選択を筆者が独断で決定し、それに伴って作品の配列も変わったのだが、出題図の方を古い図のまま残してしまったのが2図もあった。それだは配列が変わるので途中の作品番号も全部ずれてしまうという大きなミスを招いた。ずっと誤植がなかったとの慢心があった。深く反省している。
 800部刷って、現在売れたのは206部。収支は -276,370円。

2023年 紅樹

 橋本樹詰将棋作品集
 解説:小林敏樹、平井康雄
 76局収録。80頁。1220円(税込)

 こちらは平井康雄さんから持ち込まれた企画。橋本樹さんが亡くなられたと聞いて、掲示板特典で『橋本樹作品集』を作ったのが2022年の11月。話が来たのは、そのすぐ後だった記憶がある。
 平井さんと仕事をするのは『怒濤』以来2回目だということと、小林さんも解説スタッフに引き込んだこともあって、編集作業は非常に楽だった。その分、定価もギリギリ安くしてある。
 しかし遺作集は正直いって作る楽しみは薄い。やはり作者に喜んで貰える本を作りたいものだ。平井さんからはもう1冊遺作集の提案があるが、これは実現はしないだろう。
 800部刷って172部売れている。収支は -121,195円。

2023年 景観百番

 信太弘詰将棋作品集
 100局収録。100頁。1500円(税込)

 信太さんからある日突然原稿が送られてきた。昨年の11月のことだ。
「いくつかの出版社で断られた。つみき書店で出版してほしい」
 原稿は自伝的小説なのか『ひまわりの伝言』という文章と詰将棋百番の『景観百番』の二部構成だった。
 『景観百番』のみなら出版すると返事を書いた。あまり売れないだろうからamazonKDPで出版することも了承いただいた。
 原稿は昔の信太氏を知る方なら意外に思われるかもしれないが、1作につき1~2行の解説のみ。まったく書いていないものも多い。そこで詰パラから解説や解答者の短評を拾い集めた。未発表作については森美憲さんに感想を依頼した。本書の編集もわりとスムーズに進んだ。やはり作者の原稿があるというのは大きい。
 困ったのはamazonKDPの審査だ。背表紙の条件が異様に厳しくて何度装丁を修正しても審査に通らない。しかたなく編集をやり直して空白を増やし、100頁に増量した。それでも背表紙の文字は小さく細くしてある。文字の左右に各2mmのマージンがないと審査に通らないらしい。やっと審査を通ったが、完成品はどうみても1mmずれている。断裁も(最初に注文したロットは)酷かった。『詰将棋つくってみた2021』では不満はなかったのでがっかりだ。信太さんには申し訳ない気持ちだ。500部でも印刷に回した方が良かったか……。
 経費削減のため、装丁は筆者が行った。写真は青蓮寺湖、作者が第100番の命名に使用した三重県の湖である。
 今月発売だからまだ収支は計算しても意味なし。
 

2023年 古図式趣向詰撰集

 利波偉著
 284局収録。207頁。2000円(税込)

 この本は利波さんからの依頼だったのか……実ははっきり覚えていない。こちらから持ちかけたのは『黒川一郎研究』だったはずだから、依頼されたんだと思う。
 図面は柿木データであり、文章もWORDで書かれているということで、初めは楽勝かと思えた……ところが実際には大変な編集作業になった。
 2022年7月以降、Studyplusをいうアプリで作業時間を記録するようにしている。今回の新刊4冊の作業時間は以下の通り。

金田秀信の詰将棋543 92時間08分
紅樹 54時間10分
景観百番 72時間22分
古図式趣向詰撰集 130時間31分

 『金田543』は記録を取り始める前から作業をしているので比較にならないが、『紅樹』や『景観百番』と比べて大幅に手間がかかっていることが分かるだろう。東京都の最低賃金だったら139,000円はいただきたいくらいの時間がかかった。
 原因はWYSIWYGでないソフトを使ったことのない方にはなかなか理解して貰えないということが一つ。もう一つはほぼ大筋が組み上がった後に、古図式が全く分からない筆者では校正ができないということに気づいたことにある。例えば将棋にしても象戯だったり将基、將棊、将棊……色々だ。それぞれの書名をどれに統一するのが適当なのかのか、筆者には判断できない。作者名だって例えばなのか無住僊良なのか。素人には判断しかねる。
 そこで筆者の知る限りで古図式に詳しい方、佐々木聡さんと磯田征一さん、そして金子義隆さんにゲラを送って校閲をお願いした。その校閲が又詳細で膨大なものだったので、手直しや追加が大量に発生したことなどがある。
 ともあれ原稿にはなかった秘曲集の詰上り図を入れたり、筆者としては誠実に仕事をしたつもり。喜んで貰えたと思うのだが……。
 装丁はこちらもマニアックな内容なので筆者が行い、amazonKDPを使用している。2つの図面はマニアなら一目でわかるはず。人物は家治。表4の図は久留島義太の著書(数学の本もこの方は自分では書いていない模様)から筆者が描き起こした。

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