詰将棋つくってみた(163) 課題34:講評

Judge:springs

はじめに

 今回Judgeを担当するspringsと申します。たくさんのご投稿ありがとうございました。好作が多く、幾度も心揺さぶられながら楽しませていただきました。
 攻方駒のスイッチバックという同一の課題にもかかわらず、多種多様な作品が集まったように思います。駒が途中で成る場合はスイッチバックと言わない場合もありますが、今回は途中で成ってもOKです。このレギュレーションを積極的に利用したと思われる作品がいくつかあり、印象的でした。

優秀作

第12問 ひまかじま

正解
57龍、56銀、55飛、54桂打、53歩、63玉、
66龍、同桂、65飛、同銀、64歩、54玉、
44銀成まで13手詰

 解いて強い感動を覚えた作品でした。攻方には55飛・55龍・57龍の選択肢が、受方には54合と56合の選択肢があり、謎解きが始まります。鍵は37金。作意は打歩詰局面らしからぬ銀合と桂合を龍・飛の捨駒で動かすこの上ない手順です。細かいですが、龍の王手で出した銀合を飛車で動かし、飛車の王手で出した桂合を龍で動かしており、「クロス」しています。このことが作品に適度な複雑さを生んでいるように思います。また、37金を取る変化には22桂成の軽手があるのも見逃せません。

第14問 シナトラ

正解
87龍、68玉、77馬、57玉、22馬、68玉、
57龍、同角成、77馬、69玉、58銀、同馬、
79金、同玉、78馬まで15手詰

 本作の見どころは馬の長距離の往復と57龍という鮮烈な捨駒。22馬の限定移動を引き起こす受方13角が57龍を取る手順になっており、二つの見どころをシームレスに繋げています。57龍は角・香・玉の焦点への捨駒で紐なし。ここまででも充分に素晴らしい内容ですが、舞台装置の銀と金さえも収束で捨て去ってしまっては完璧というよりほかありません。

第21問 佐藤和義

正解
35銀、23玉、32銀不成、12玉、21銀不成、23玉、
24飛、13玉、14飛、同玉、64飛、24角、
同飛、13玉、12銀成、同玉、14飛、13角、
21角、23玉、32角成、12玉、13飛成、同玉、
24角、12玉、21馬、23玉、33角成、同玉、
32馬まで31手詰

 41銀の連続活用、24角の捨合と13角の限定合、馬(角)の21-32間の往復と、盛りだくさんの内容です。41銀は変化で32→21→32と往復しています。その銀を成り捨てて角にバトンタッチ。21角と打って32→21→32と往復します。21-32間の着手が共通しており、物語性を感じさせます。全体を通して変化に厚みがあり、収束の角の成り捨てに辿り着いた解図者に大きなカタルシスを与えるに違いありません。ここまでの内容が非常に軽い配置から紡ぎだされていることに驚くばかりです。

佳作

第16問 久保紀貴

正解
49香、51玉、41香成、52玉、42成香、53玉、
43成香、54玉、44成香、55玉、45成香、56玉、
46成香、57玉、47成香、58玉、48成香、59玉、
49成香まで19手詰

 出題順からおおよその手数が分かり、課題がスイッチバックということはきっとそういうことなのだろうと予想できます。49香の最遠打から41香成、そして成香を49まで引いて詰み。32玉の変化は玉を37まで追う必要があるため初手は最遠打となり、歩の中合は52歩/36歩が打てるため早く詰むという仕組み。少ない理屈で作意が実現できているのが好印象です。また、歩中合の変化での52歩は軽いですが鮮やかな捨駒だと感じます。

第17問 シナトラ

正解
46桂、44玉、26馬、45玉、25龍、56玉、
55龍、47玉、48馬、36玉、25龍、46玉、
55龍、36玉、26馬、47玉、45龍、38玉、
49龍、同玉、48馬まで21手詰

 初手は33馬や33龍などの誘い手があり、冒頭2手の逆算の効果を実感します。また、初手に跳ねた桂が後で邪魔になるので、この逆算は充分に価値があります。
 邪魔な46桂を消去するべく龍がスイッチバックし(しかも25龍は捨駒)、馬は48-26を2往復。収束はきっちり龍を捨てています。67桂が跳ねて詰む変化や15角が33角成~55馬と動いて詰ます変化があり、機能的な美しさを感じます。

第19問 芹田修

正解
24香、33玉、31飛不成、32飛、同飛成、同玉、
22飛、31玉、21飛成、42玉、51龍、32玉、
33歩、同玉、45桂、同金、34歩、32玉、
21龍、42玉、33歩成、同玉、22龍まで23手詰

 冒頭の6手が非常に価値の高い逆算。2手目13玉の変化には12金の限定合と25桂の捨駒が含まれています。そして、31飛生、32飛合の応酬を経て飛車を打ち直します。攻方は51龍の形を目指し、受方は極力それを阻止するように応じているわけですが、初形が51飛の配置になっていることで局面対比の効果が生まれています。収束の33歩成も軽妙で、最後まで感触の良い手が続きます。

第20問 武田裕貴

正解
43馬、23玉、32馬、34玉、46桂、同龍、
43馬、23玉、12銀不成、14玉、13桂成、同玉、
23銀成、14玉、13成銀、同玉、12桂成、同銀、
24銀不成、22玉、33銀不成、13玉、22銀不成、14玉、
25馬、23玉、33銀成、同玉、43馬まで29手詰

 まずは46桂の捨駒で龍の利きを逸らしながら馬のスイッチバック。13銀・25桂・24桂を捌き切り、「ああ、これに繋がるのか!」と膝を打ちました。銀生のスイッチバックで22歩を消去し、最後は馬のスイッチバックで華麗な詰み。冒頭でスイッチバックした馬が収束で再度スイッチバックする展開には納得感があります。

講評

第1問 久保紀貴

正解
24馬まで1手詰

 双方が合法手のみを指してきてこの局面に至ったとすれば、23玉・24角の局面から「13角成、33玉」と指したのだと分かります。21香・26王の配置で「11馬、22香打」の逆算を否定するアイデアが面白いと思いました。比較的少ない駒数で狙いを実現しているのも良い点だと思います。
 隅の馬は逆算を一意にしやすいと思うので、さらに発展できないかと夢想します。例えば、逆算の仕方が2通りであり、一方では13馬がスイッチバックして他方では11馬がスイッチバックする、など。

第2問 RINTARO

正解
13馬、33玉、42龍、34玉、35馬、同玉、
45龍まで7手詰

 馬と龍のスイッチバック。攻方はそれ以外の手を指しません。馬の復路は捨駒になっており、手順に非の打ちどころがありません。しかしながら、山田康平氏作(詰パラ2014.12)の短縮版という印象は拭えませんでした。
・参考:https://kazemidori.fool.jp/?p=22579 (例題7)

第3問 みつかづ

正解
27銀、29玉、38銀、18玉、29金、同歩成、
27銀、28玉、38金まで9手詰

 右下隅の3×3に収まった配置で可愛らしい作品。スイッチバックする銀を盤上に打つところから始めているのがいいですね。

第4問 keima82

正解
42角、16玉、33玉、52飛、17歩、15玉、
34玉、42飛、25飛まで9手詰

 離したい遠打には近づけたい中合が付き物ですが、本作の場合は角が成れるメリットが大きいので大丈夫。42角のラインを王で閉じて、開く。これがスイッチバックになっているわけですね。
 初手25飛が指せる配置になっているのがよいと思いました。つまり、初形で攻方17歩があれば25飛で詰み、という局面対比の意識が伝わります。

第5問 RINTARO

正解
23香成、14玉、24成香、15玉、25成香、16玉、
26成香、17玉、27成香、18玉、28成香まで11手詰

 言われてみれば確かに課題をクリアしている! 使用駒3枚で、恐らく最もシンプルな達成方法。

第6問 RINTARO

正解
23桂、22玉、31角、21玉、11桂成、31玉、
21成桂、32玉、22成桂、33玉、23成桂まで11手詰

 23桂が成桂になって戻ってくるのは第5番と似たアイデア。4手目33玉の変化を詰ますのが大変でした。両王手ではない11桂成は、根元の飛車を取られてしまうので不利感があると思います。作意では取られる2枚の角が、この変化で充分にはたらきます。

第7問 松田圭市

正解
27銀、17玉、18銀引、16玉、17歩、15玉、
24馬、26玉、27銀、17玉、35馬まで11手詰

 まずは銀をスイッチバックしながら17桂を消去。もし「17歩、15玉、24馬迄」で終わっていたら平凡でしたが、本作はさらに馬のスイッチバックが続きます。邪魔駒の26香を消去するためには17桂が邪魔という構成でした。変化が少ないのは若干気になりますが、狙いをコンパクトな配置かつ無駄のない表現で実現しています。

第8問 negitarou

正解
34角不成、45飛、68桂、55玉、56歩、44玉、
43角上成、35玉、25馬、44玉、43角成まで11手詰

 頭2手の応酬が見どころ。後半は追い詰の印象を受けました。本作は、打歩回避の角生と飛車の移動合からなる前半部分と、角を何回か動かす後半部分を繋ぎ合わせた作りをしています。両者を角の往復でドッキングできるというのは一つの発見ではあるのですが、両者は面白さの方向性が異なるため、お互いに他方の良さを濁してしまう恐れがあります。
 例えばですが、「43角生、45飛」で始まって捨駒主体で終わる作品を一つ、角を何度も往復させる趣向的な作品を一つ、というように二作に分割して作ってみるのはいかがでしょうか? 感じのいい詰将棋を作るには、手順全体に一貫性を持たせる方が比較的簡単だと思います。

第9問 みつかづ

正解
25角、同玉、24金打、16玉、25角、15玉、
16歩、同と、14金、25玉、24金右、15玉、
45飛まで13手詰

 邪魔駒の角を消去する過程で金がスイッチバック。その金と角を設置するところまで逆算し、盤上6枚の好形に仕上がっています。変化は少なめかもしれませんが、充分楽しめます。例えば、4手目15玉に対する45飛に25合が隠れています。
 一点気になったこととしては、飛車のはたらきが薄いように感じました。恐らく使用駒が数枚増えてしまいますが、46飛を動かす逆算を入れるのは一案だと思います。例えば下図のようにすれば26桂の移動合が入ります。下図は2手目他合の割り切り方が雑なので、もう少し色々できると思います。いずれにしても初形の枚数は増えそうなので一長一短ではあるかと思います。

第10問 武田裕貴

正解
73飛成、65玉、83馬、74桂、同龍、56玉、
77龍、55玉、74龍、88歩成、67桂、56玉、
54龍まで13手詰

 全体を通して龍(飛)の動きを楽しめる作品。4手目74歩合は、作意と同様に進めた場合に56歩が捨駒になるのでいかにも作意らしく感じます。捨合は大抵の方は歩合から読むのではないのでしょうか。どれくらい誤解が出るのか楽しみです。しかしながら、代償として作意の詰上りが重くなっています。

第11問 negitarou

正解
66角、37玉、48角、47玉、77飛、同と、
93角成、37玉、48馬、27玉、28歩、16玉、
15金まで13手詰

 連取りの仕組みを使ってスイッチバック。飛車の捨駒はよいのですが、連取りにフォーカスする選択もあると思います。下図は一例です。

 取った歩を収束で使うのは大変なので、繰り返し手順の中で歩を打ち捨てています。もし飛車捨てを組み込むのであれば、例えば下図のような作り方ができると思います。

 ちなみに、連取りはつみき書店さんのブログで勉強しました。
https://kazemidori.fool.jp/?p=10086
https://kazemidori.fool.jp/?p=10018

第13問 ひまかじま

正解
17角、36玉、27角、46玉、28角、56玉、
38角、66玉、65飛、76玉、77飛、86玉、
85飛、96玉、97飛まで15手詰

 くるくる系の作品。2枚の角と2枚の飛車がスイッチバックし、玉はノンストップで9筋へ。万人に伝わる面白さだと思います。難しい作品だけが詰将棋ではないですね。

第15問 ひまかじま

正解
75角、55玉、64角、45玉、54角、56玉、
65角、45玉、44飛、36玉、26飛、35玉、
34飛、45玉、25飛まで15手詰

 第13番と同様に2枚の角と2枚の飛車のスイッチバック。1枚の大駒につき1枚の攻方駒を玉に取ってもらいます。66玉の詰まし方と56桂を消去する理由が見えにくく、手順に妙味を与えていると思います。

第18問 RINTARO

正解
17歩、15玉、16歩、14玉、15歩、23玉、
13馬、同玉、14歩、24玉、23飛、同玉、
13歩成、24玉、14と、25玉、15と、26玉、
16と、27玉、17と、28玉、18とまで23手詰

 第5番と同系統の作品ですが、本作の主役は歩。35馬配置の効率の良さが目を引きます。

第22問 本間晨一

正解
15と、26玉、25成香、36玉、35と、46玉、
45成香、56玉、55と、66玉、65成香、76玉、
75と、86玉、96飛、同玉、98飛、97桂成、
95金、86玉、85と、76玉、75成香、66玉、
65と、56玉、55成香、46玉、45と、36玉、
35成香、26玉、18桂、同成桂、25と、16玉、
18飛、17金、15と、26玉、25成香、36玉、
35と、46玉、45成香、56玉、55と、66玉、
65成香、76玉、75と、86玉、98桂、同成桂、
85金、96玉、98飛、97桂、95金、86玉、
85と、76玉、75成香、66玉、65と、56玉、
55成香、46玉、45と、36玉、35成香、26玉、
18桂、同金、25と、16玉、18飛、17桂、
15金まで79手詰

 金のベルトは大群のスイッチバック。右端と左端の違いが趣向手順を生み出しています。私の勘違いなら申し訳ないのですが、58手目の97合は桂・金・角合の非限定かと思います。以降の手順に影響しないのでそこまで気にはなりませんが、可能であれば限定したいところのように思います。

「詰将棋つくってみた(163) 課題34:講評」への1件のフィードバック

  1. springs様
    講評とご意見をいただきありがとうございました。
    特に【第11問】については、アイデアをいただき、興味深く思っております。
    自分は作図するとき、ワンアイデアで満足してしまいますが、もう少し捻るなどして工夫してみたいと思います。
    (コメントが遅くなりました。)

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