2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。
選題の言葉(2011.7)
今年は詰将棋作品集が豊作だ。すでに「新約・神詰大全」、「四百人一局集」、「月下推敲」等が発行されている(はずだ)。特に「四百人一局集」は厚みに比例した読み応えのある内容で、今後30年は最も数多に紐解く詰棋書になることは間違いない。
これを機会に全詰連書籍部が活発に活動を始める事を期待してしている。書籍に纏めるというのは意義ある仕事だ。儲からない仕事だから全詰連の出番だろう。スタッフの手弁当に頼る現状は改善されなくてはならないが。
今月は新進気鋭の超長篇。手数は合わせて738手。しかし、読者諸賢はやさ院で「超長篇必ずしも難解ならず」とご理解頂いているはずだ。手順は上手く略記してください。
深和敬斗「宙船」 詰パラ2011.8改
52飛成、64玉、63龍、
{55玉、65龍、46玉、56龍、
37玉、47龍、28玉、48龍、
19玉、59龍、28玉、68龍、
19玉、79龍、28玉、78龍、
19玉、89龍、98龍、37玉}=甲、
{38龍、46玉、47龍、55玉、
56龍、64玉、65龍、53玉、
63龍、42玉}=乙、
52龍、31玉、41龍、
{22玉、21龍、13玉、12龍、
24玉、15龍、23玉、24歩、
22玉、12龍、31玉、21龍、
42玉、41龍、53玉、52龍、
64玉、63龍}=丙、
甲、乙、52龍、31玉、61龍、
丙、甲、乙、62龍、31玉、
71龍、丙、甲、乙、72龍、
62歩、同龍、31玉、61龍、
丙、甲、49桂、同桂成、乙、
72龍、62歩、同龍、31玉、
51龍、丙、55玉、65龍、46玉、
56龍、37玉、47龍、28玉、
38龍、19玉、49龍、28玉、
48龍、19玉、59龍、28玉、
68龍、19玉、79龍、28玉、
88龍、37玉、49桂、36玉、
乙、72龍、62歩、同龍、
31玉、51龍、丙、75玉、65龍、84玉、85龍、93玉、94歩、
同金、同龍、同玉、95歩、
84玉、85金、93玉、94歩迄339手詰
☆単刀直入に龍追いが始まる。63龍に75玉は65龍以下簡単。快調に右下まで追い落としていく。
☆調子に乗って38龍と追うと19玉で次の手がない。48龍から59龍だと玉方は合駒がない。68龍には19玉と当然ごねるが99金の質駒を目標に龍鋸が成立するのは明らかだ。その99金を取られては終わりなので88龍には37玉とこちらに逃げざるを得ない。かくして龍追いが再開できる仕組みだ。
☆右上は1歩消費して折り返す。反転型龍追い作品では見慣れた機構だ。
☆この龍追+龍鋸のルートを回転させるエンジンは上辺の41歩、61歩、71歩、72桂の配置だ。入手した桂で59桂を剥がすのにさらに1サイクル。もう一度49桂と打てば右下へのルートは塞がり、収束だ。
名越健将 摩利作のプロットを借りているような気もするが、この作を作る敬斗君は只者ではない
☆300手越えの構想を破綻なく纏めるだけで並大抵ではない。しかもいとも容易く仕上げた印象だ。この作者、数年の内に素晴らしい傑作を見せてくれるのではと期待してしまう。楽しみだ。
斎藤博久 難易度はないがすばらしい趣向です。
水谷一 中級者にも楽しめる超長編。玉方の桂捨合を制限するなど、細かい所に工夫が行き届いた好作。
昭和三十六才 確かに長くても必ずしも難解ならず。
原田清実 「やさ院」よりもやさしい気もしますが、そこがまたいいところです。
☆本作のおかげで1月号並の解答者数。感謝感謝。
作者 創作中に大塚播州氏作「聖火」を見つけて龍追+龍鋸がオリジナルでないことを知りガッカリしました。
増田智彬 「聖火」と比べると、初形成駒なし、収束で龍を消す、手数が増加、あたりがセールスポイント。
☆作者の気持ちを代弁して貰いました。
☆筆者が惹かれたのは「龍追いに龍鋸を組み込んだら面白いのではないか」という発想を、直球ど真ん中で表現した点。深い味わいには欠けるが、若書きらしい溌剌さに溢れた作品になっている。劫を経るとツイツイ複雑な構成にしたくなってしまうもの。
池田俊哉 収束までシンプルに描いている分、構成が際立っている。
野口賢治 複雑さとは無縁のスッキリとした印象。
☆作者から改良図が送られてきた。33手。龍鋸の軌跡が9筋まで延びた。88を跨ぐ緊張感も付加されぐっと良くなった。
※註:発表原図は87銀・99金の配置の319手でした。金銀を交換して20手延長。
おまけ
解説で言及している「聖火」は次図になります。