本日は第3章Aの字を紹介する。
いきなり完成図から始まる。
66金、同飛、57桂、54玉、43銀不成、同玉、34銀不成、同玉、45と、同角、35金打、43玉、55桂、53玉、65桂打、同飛、54香、同角、65桂、同角、52飛、同龍、同馬、54玉、53飛、同銀、63馬、55玉、45馬まで29手詰
ところが後藤周吉氏に15手目63歩成の余詰を指摘される。
田中至は修正に取り組むが……。
しかし、その努力もむなしく、結局は修正不可能のレッテルを貼る憂き目となってしまった。
「またまた、好作が一つ減ったのか……」
虚無感におそわれ、疲労感が一度に溢れ出た。
あきらめきれない田中至は【第2図】をまとめる。
25金、33玉、45桂、43玉、44歩、同馬、35桂打、同馬、55桂打、同飛、44歩、同馬、55桂、同馬、42飛、同龍、同馬、44玉、43飛、同銀、53馬、45玉、35馬まで23手詰
しかし田中至は【第2図】を「逃げの創作」として没にする。
桂歩の打捨てを増やし、リフレインの味をねらって【第3図】を得る。
32歩、同馬、23桂打、同馬、43桂打、同金、32歩、同馬、43桂不成、同馬、32歩、同馬、23桂、同馬、42金まで15手詰
さらに【第2図】を別のあぶりだし曲詰にする方向でも創作をし、【第4図】を得る。
66銀、同飛、54と、同玉、63銀不成、55玉、54銀成、同玉、84飛、55玉、54飛、同玉、56香、同飛、46桂打、同と、同桂右、同飛、55歩、同馬、66桂打、同飛、同桂、同馬、53と、同銀、63角成、55玉、54飛、同銀、64馬、56玉、46馬まで33手詰
さてふたたび「A」の字形の創作が振り出しに戻った。修正困難なときは、創作を改めた方が賢明なのだが、その決断すべき時期がすこぶる難しい。不完全図【第1図】があまりにも気に入っていたので、その時期を見失ってしまった。再出発に際しては、当然不完全図よりも立派な作品を望むようになり、肩に力が入り過ぎて、肝心な頭脳の回転が鈍る一方であった。
とにかく【第5図】を得る。
54銀成、同玉、36馬、55玉、45馬まで5手詰
54銀成を54飛の打ち捨てに方針転換し【第6図】にする。
7手目54飛ではなく56飛があるがどうするんだろうと心配になるが、後で解決する。
86と64を埋めるために75銀を打つことを考える。
先程の56飛に気づき、64の駒は桂に決定する。
47馬、66玉、75銀、55玉、45金、同玉、35飛、同飛、同と、55玉、54飛、同玉、36馬、55玉、45馬まで15手詰
さらに逆算して【完成図】を得る。
36銀、同玉、37飛、46玉、56金、同玉、47馬、66玉、75銀、55玉、45金、同玉、35飛、同飛、同と、55玉、
54飛、同玉、36馬、55玉、45馬まで21手詰
このようにして、A字型の曲詰は難産の末に誕生したわけであるが、自分の作った作品には一つ一つに思い出があるもの。特に、苦心して作った作品には表現しがたいなつかしさがわいてこようというものである。
この感想には共感を覚える。
オーバーにいえば、自分の寿命も限られているわけであるから、一日も早く、一つの選に到達させたいと願うのが、いつわらざる心境といえる。シリーズ創作には楽しい思い出がある半面、こういったあせりというものが、常につきまとうことも確かなようである。であるから、ABC26文字すべてを完成したときの感激は、やはり体験した者でなければ理解できないであろう。
なにか纏まったものを作ろうとするのならば、ある程度の見切りをしないといけないということであろう。
もっといいものを時間をかければ作れるであろうが、人間は何時死ぬか解らない。
次の目標に移る機会も逸してしまう。
シリーズ創作だけの話ではなく、作品集も同じだと思う。
(筆者もそろそろ作品集『いっこの積木』をまとめようと決心したけれど、40年も前に作った作品、創作の苦労など忘れてしまったよ。)
曲詰シリーズや煙シリーズ、全駒市松シリーズなどを仕上げていった田中至は、人生の達人だったといえるだろう。
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この「A」の字、決して良い作品とはいえませんが、こうして作図過程を追って行けたら、曲詰の作り方、詰将棋の作り方が皆目わからないという方にとって、たいへん参考になったと思われます。
そうした意味で、こうした本は貴重ですね。
余詰でがっかりしても、【第3図】【第4図】と2作も物にしてしまう逞しさも学べると思いました。
【完成図】は駒取りも多くて、どうしようかなと思ったのですが、twitterでEOGさんが【第3図】を紹介していたのでuploadする決心がつきました。