詰将棋雑談(53) 99飛は看寿賞受賞作なりや否や

山本民雄 詰パラ1970.11

昨日の詰将棋入門(142)で取り上げた作品。雑談でも取りあげる。

この作品をさらに有名にした詰パラ1976.11『古今短編名作選』における原敏彦氏の解説を引用しよう。

君知るや99飛。あの山田修司氏をもって「肌に粟を生じる感」と叫ばせ、詰棋界を揺るがした白眉中の白眉である。角捨てと千鳥銀と鋭い97飛を配して、この99飛が切磋琢磨されたのである。超越した何かがある。感動を覚えさせずにおけぬ何かがある。半期賞受賞作、嗚呼、君知るや99飛。

「半期賞受賞作」に引っかかった方はいるだろうか。
なぜ「看寿賞受賞作」でないのか?『看寿賞作品集』にもちゃんと収録されているのに。

因みに詰パラ2005.8の門脇芳雄「山本民雄氏を悼む」では本作が看寿賞受賞作として紹介されている。

氏の誌上デビューは昭和39年で、逆算すると氏が13歳の時である。最初の数年間は洗練された中短編作家という印象であった。看寿賞受賞作であるA図はこの時代の作品で『古今短編名作選』に原敏彦氏の「君知るや9九飛」のキャッチフレーズで収録された歴史に残る傑作である。本題に限らず、氏の作品は着手の発想が飛躍していて、解答を示されても手順の意味を理解するのに時間がかかる作品が多かった。

一方で詰パラ2015.11の近藤郷「らんぶるの時代」では看寿賞を逃した悲運の名作として紹介されている。

投稿原稿に付葵が糊付けされていて山田修司、吉田健両氏のコメントが書かれていた。
山田修司氏をして「肌に粟を生ずる感」と言わしめた彼の短篇代表作の一つであり、さらに『古今短篇名作選(1977年刊)』での原敏彦さんの名文句「君知るや、的飛」で、より鮮烈に記憶されることになった。
一方、翌年の看寿賞では、選考委員の多くから推挙されるも、「修正再出題」という理由で、対象から外され受賞を逃し”悲運の名作”とも言われた。

いったいどっちなんだ?

発表時の担当者月桂冠氏おそらく近藤郷氏の変名らしいなので、近藤氏が正しそうだ……。

小林敏樹さんから月桂冠氏は4月号の担当者で修正再出題の11月号の担当者は近藤郷氏だと教えていただきました。

詰パラ1971.6「昭和45年度詰将棋看寿賞選考結果発表」に次のように記述がある。

☆選考結果
右の結果、短篇では山本氏の作、長篇では駒場氏の作が当然候補に上り他の四作はいささか弱いと見られます。ところが、まずい(?)ことにこの両作共”修正再出題”という弱点を持っていることであり、再出題ものに授賞すべきでないという”有力な意見”がかなりあるので、まことにイカンながら、今回も授賞該当作は”なし”という結果になりました。
☆両氏には奨励賞として「誌代拾力月分」ずつを入帖いたします。

ということで奨励賞であって看寿賞ではないということのようだ。(では何故『看寿賞作品集』に収録されているのか、第1回の柏川作は収録されていないのに等の謎は残る。このような難しい点もあるのでつみき書店では作品の引用の際に受賞歴については触れていないらしい)

因みにこの年の看寿賞選考委員は16名。内、5氏が棄権したと言うことなので投票に参加したのは11名。山本民雄作に投票したのは9名。計算すると「かなりあった有力な意見」は残りの2名ということになる。(もう時効なので内幕の話を近藤さんにきいてみたいものだ。コメントください)

詰パラ1999.2「名局ライブラリー」で柴田昭彦氏は次のように書いている。

☆余詰再出題ということで残念ながら看寿賞は取れなかった。余詰に関係なく絶妙手的飛の遠打に敬意を表して看寿賞を取らせてやりたかったと今でも思う名作である。左記の実力者達の短評を見るとそういう心境にならざるを得ない。

私見を述べると、「取らせてやりたかった」という表現には違和感を感じる。
筆者だったら「名作であるから是非とも看寿賞に入れておきたかった」と書く。

看寿賞に限らず、〇〇賞に権威を与えるのは選考委員の見識の高さとか賞金の額ではない。
賞に権威を与えるのは受賞した作品それ自身なのだ。
そこを間違えてはいけない。
過去の受賞した作品と同列に並ぶことができることで受賞した作家は喜ぶのである。

この名作を看寿賞から外したのは看寿賞の権威を著しく損ねることになったといえる。

さらに蛇足だが、本作は変長作である。
10手目に48歩合とすると同飛、37玉、47金まで13手駒余。

変長すなわち不完全論者はこの名作を楽しめない。幸薄いことであることかな。

山本民雄作品集はないが、全作品が『この詰将棋がすごい!2012年度版』に収録されている。

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