詰将棋入門(77) 桂馬の替りに馬銀を渡す

伊藤看寿 『将棋図巧』第27番 1755.3

第17番の発想に至る通過点となった作品かもしれない。
しかし、斬新な狙いであり、その表現がまた素晴らしい。

この作品があまり紹介されないのは、残念ながら余詰があるためだろう。

65金、同成桂、73金などと進めてみたいが、65金に63玉と躱されて届かない。
そこで退路を断つ52角成から始まる。

52角成、63歩、

63の合駒読みでじっくり考えさせられる。
63飛(金)合は65金、同圭、63馬、同玉、73金以下。
63銀合は65金、同圭、73金、同玉、65桂左、72玉、63馬、同玉、54銀以下。
この変化の54銀が素晴らしい。
桂合は無い
ただし、香合でもよさそうだ。合駒非限定。

65金、同成桂、73金、同玉、65桂左、72玉、

この局面がクライマックスの起点である。
普通に攻めると、45飛の活用を考えるので……

73桂成、

65桂はおかわりできるので、飛車を通してから再度65桂としたい。

同玉、75飛、74桂、

玉方は桂合の一手である。
その理由は進めてみると解る。

65桂打、72玉、74飛、同馬、73歩、同馬、同桂成、同玉、

【失敗図】

この局面で頭に利く駒があれば74に叩いて詰むのだ。
しかし、65桂では74玉で、84角には72玉で詰まない。

8手目の局面に戻す。

ここからの一連の手順が本局の目玉だ。

62銀成、

この手は退路塞ぎ。

同香、61馬、

同金ならば
73桂成、同玉、75飛、74合、65桂打、72玉、73歩、71玉、81歩成まで

【変化図】

したがって51同玉となる。
どうせ51馬とするのならば香を入手した方が得のように見える。
それを銀を棄てて香を移動し、その空いた所に51馬と空捨て、しかも同金の変化もつけてという演出が素晴らしい。

同玉、53桂不成、

51玉ならば41飛成まで。
これが9手目62銀成の効果だ。

しかし、結局72玉と戻すことになるが……

72玉、73歩、

73桂成ではなく73歩で手が進められる。

同玉、75飛、74歩、

今度は桂合がないのだ。
先程の【失敗図】に至る74桂は73桂成で入手した桂馬だった。
その桂馬を玉方に渡さないために、桂馬は53に使い、そのために銀と馬を捨てたということになる。

65桂打、72玉、74飛、同馬、73歩、同馬、同桂成、同玉、74歩、

【失敗図】と比べて持駒が「角桂」ではなく「角歩」なので、74歩と叩ける。

72玉、83角、82玉、73歩成、同玉、65桂、

同玉は2手短い。
打った歩を成捨てる気持ちの良い捌き。

82玉、74角成、91玉、64馬、同歩、83桂、82玉、71桂成、同玉、82金 まで43手詰

収束は例によって大駒を片付けて、小駒のみのスッキリした詰上がりだ。

玉方に桂を渡さない攻めというナラティブであった。
その意味づけは桂合をさせないということ。

第17番は香合をさせたくないのだが、香を渡さないためにその香をとらずに歩をとるというナラティブ。

さて本局の余詰は肝腎の狙い手の部分にある。
9手目62銀成、同香に同馬ととって詰んでしまう。
同玉に42飛成だ。

ということは65桂もどちらが跳ねても同じだし、73玉の形で62馬としてもよい。
要は42飛成が強すぎる。

作意手順だけを成立させるなら42飛成を消せば良いのだから難しくは無い。
31銀とでも置けば良い。
ただそうすると2手目銀合が詰まなくなるので、例えば下図のようにしなければならない。

【駄目な修正案】

しかしこれでは54銀という妙手を含む、銀合の変化自体を消してしまうのだ。看寿は満足しないだろう。


(追記 2020.10.19)
コメントでRedshiftさんから次の修正案をいただいた。

61香を歩に変更しただけで余詰が消えている。
2手目銀合の変化もちゃんと残っている。

62馬の筋に、同玉ではなく、同金で堪えようという発想だ。

作意が2手目「63歩合」だったので筆者は考えもしなかった。
古図式の補正図は作意を変更しないというのが大原則だが、それをいうなら筆者の3手目「65銀」も詰将棋博物館の5手目「73成銀」だって作意を変更していることには違いない。

この修正案は2手目を「63香合」に変更しているが、本図の場合は合駒非限定のキズも一緒に消しているわけで、名案だと思う。「補正図案」が駄目なら「参考図」として紹介されても良いだけの価値を持っていると考える。

古図式研究家のご意見を伺いたいものだ。(磯田さん、金子さん。是非コメントをください)


(追記 2020.10.21)
おかもとさんからコメントをいただき、「61歩」の修正案はかの駒場和男が発案し、門脇芳雄氏が詰パラで発表しているとのこと。
確認しました。(詰パラ2003.12より)

Redshiftさんの実力が駒場和男レベルということが実証されましたね。

「詰将棋入門(77) 桂馬の替りに馬銀を渡す」への11件のフィードバック

  1. 本局の構想は、玉方に桂を渡すと後で桂合をされて詰まないので、玉方に桂を渡さぬように巧妙な攻めかたをする狙いである。第17番と似た構想といえる。
    問題の手順は、9手目6二銀成から6一馬のところである。ここで落し穴は、6二銀成などと厄介なことをせず、平凡に『7三桂成、同玉、7五飛』の手順である。
    すると玉方は『7四桂合(桂以外の合駒なら詰む)』、6五桂打、7二玉、7四飛、同馬、7三歩、同馬、同桂成、同玉となり(持駒が角桂で7四歩と叩く歩がないため)虎口を脱する。
    ふり返ってみると、攻方の失敗の原因は、『7三桂成、同玉』と玉方に桂の持駒を渡してしまったことである。
    そこで、本手順は9手目6二銀成(好手)から6一馬(妙手)と入り、5三桂生と難渋な手順をふみながら、玉方に桂の持駒を持たせないように攻める。これにより7五飛に対する合駒は7四歩合の一手となり、以下容易な詰みとなる。
    将棋月報 昭和15年8月号73頁 「私の古名作鑑賞」杉本兼秋氏
    [註]文化年間江戸中橋廣小路、西宮彌兵衛の刊行せる将棋圖巧には第二十七番誤描あるものゝ如し」 と攻方7二金の配置および玉方3一銀の配置のない図は誤りと指摘している。
    なお、誤描指摘図は、文政4年刊行した復刻本『將棊圖巧』および国立公文書館に伝わる淺草文庫所蔵の版本『象棋百番奇巧図式』(請求番号199-0409)および(請求番号199-0410)、『詰むや詰まざるや』(平凡社刊)、図式全集『将棋図巧』(マイナビ刊)にみられる。

    1. 長文の参考資料ありがとうございます。

      どこからまでが杉本氏の文章で、どこからが大橋さんの文章かがわかりにくいのですが、献上本とされる国立公文書館所蔵の宝暦5年(1755年)版が誤図であるのなら、なにをもって「正図」とされるのかを教えてください。

      1. 古図式全書(第六巻)象棋寄巧図式 解説執筆者 門脇芳雄氏 及び「将棋月報」の写を下記に掲載します。

        http://park6.wakwak.com/~k-oohasi/shougi/html/zukou/scan-001.pdf

        献上本とされる国立公文書館所蔵の宝暦5年(1755年)版が誤図であるとは指摘しておりません。

        国立公文書館に伝わる淺草文庫所蔵の版本『象棋百番奇巧図式』(請求番号199-0409)および(請求番号199-0410)に誤描指摘図が掲載されてます。

        【駄目な修正案】の攻方7二金の配置を7二成銀に修正願います。

        内閣文庫の『象棋圖式解』の第二十七番はどのようになっておりますか。お知らせ願います。

        1. なにをおっしゃりたいのかがよく理解できません。
          添付されているpdfを読みましたが、宝暦版は31銀があるという内容のようですが、ネットでご覧になればわかるように宝暦版には31銀はありません。

          【駄目な修正案】は私が作ったものなのですが修正せよとはどういうことでしょうか?

          27番の作意はどこにも異論はでていません。
          おっしゃりたいのは20番の方ですよね?
          19時にupされる本日のエントリーに載せてありますので、そちらをご覧ください。

          追記:わかりました。5手目を確認したいということですね。これも今日のエントリーに貼りました。

  2. 【駄目な修正案】について
    作意手順だけを成立させるなら42飛成を消せば良いのだから難しくは無い。
    31銀とでも置けば良い。
    ただそうすると2手目銀合が詰まなくなるので、例えば下図のようにしなければならない。

    下図でも玉方持ち駒に1枚銀があるため、勝手に誤植と判断しました。

  3. 横からちょっとだけお邪魔致します。
    31銀を置かずに「61香→歩」という修正案はアリでしょうか。

      1. 61香を61歩に替える補正案は、詰パラ2003.12のp45、門脇芳雄「将棋図巧の名補正図」に、駒場和男氏による補正として紹介されていました。

        1. この駒場和男氏による補正案は、柿木将棋をインストールすると一緒についてくる「将棋図巧」27番のkifファイルにも記されています。

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