詰将棋入門(206) 飛角図式の名作

長谷繁蔵 詰パラ1960.11

長谷繁蔵の名作。長谷氏は昨年末に亡くなられたそうで詰パラ2月号の名局ライブラリで紹介されたばかりだ。
『凌雲』『詰将棋探検隊』『四百人一局集』にも掲載されている有名作品。でも「入門」だから有名作品こそ紹介しなければならぬ。「入門」流に図面を多数使用して詳細に解説することも意味あることだろう。このブログの読者は詰パラといえばスマホ詰パラと思っていらっしゃる方もいるはずであるし。

端正な初形だ。
筆者は純正飛角図式と呼んでいる。
詳細は後で書こう。

初手はどちらかの飛車を動かすしかない。
23飛は玉に厳しく迫っているから遠くの飛車から動かしてみたいところだ。

15飛、

12の合駒はすぐに同飛成ととられて攻方の持駒になる。
このような合駒を巨椋鴻之介は揮発性の合駒と名づけた。

言葉は使われないとすぐに消える。筆者は巨椋鴻之介が大好きなのでせっせと使うようにしているが詰パラの解説陣で使っている方はあまり見られない。この用語は絶滅する運命かもしれない。せいぜい抗うが。

揮発性の合駒は弱い駒を使用するのが常識だ。
そこで逆に強い駒から考えてみると、金銀香は同飛成ですぐに詰む。
桂も24桂と打って飛成で簡単。

   12歩で不詰

【失敗図】

当然ながら一番弱い歩だと、同飛成、同玉、13歩、11玉で後続手がない。

ここで15飛の紛れに歩の限定合で不詰というのは評価ポイントが上がるところ。
「この手でなければ詰まない」というのが詰将棋のアピールポイントであるように、紛れ順も「この受けでないと詰んでしまう」というのは解答者にアピールするのだ。

というわけで初手は23飛を動かすしかない。

13飛成、

21玉は23龍で簡単だから合駒の一手。
これも次は同龍ととるしかない。
揮発性の間駒である。(合駒だったり間駒だったりするのはfepの所為であり筆者の所為ではない。どっちでもいいのだ)

間駒をXとして

   12X、同龍、同玉、

この図で考えてみよう。
\(X=金\)ならば

23金、11玉、15飛、

【変化図】

以下簡単だ。
\(X=銀\)ならば、ちょっと手数は延びるが

【変化図】

\(X=桂\)ならば

24桂、

   22玉、32角成、13玉、14馬、22玉、
32桂成、

【変化図】

以下、どう逃げても3手で詰んでしまうことが確認できるだろう。

ということは、やはり作意は

   12歩、

同龍、同玉、

やっと4手進んだ。
さて次の手は飛車か、角か。
普通は角を使いたくなる。(間駒が効かないから)

56角、

23は41角も利いているから間駒は無効だ。

   21玉、25飛、31玉、22飛成、

気持ちよい飛車の捌きも登場した。

   同玉、23角行成、11玉、12歩、21玉、
32角成まで15手詰。

【誤解図】

飛車も捨てて美しい詰上り。
発表時には5名の方がこの誤解に陥ったとのこと。

どこが間違っていたのか。
56角に間駒が効かないと即断したことである。

(56角)、45歩、

【失敗図】

25飛の展開を阻む、45歩の焦点打があった。
この紛れもこの作品の評価アップポイントだ。
限定合ではないが、中合という美技が味わえる。

56角が駄目なので、65飛を動かすことになる。

62飛成、

さてまた間駒。22への間駒はほぼ揮発性だ。Xとして進めよう。

   22X、56角、13玉、22龍、

13玉としたが他の逃げ場所でも同じこと。

   同玉、23角行成、11玉、12歩、21玉、
32角成まで

【誤解図】

間駒が余るのでこれは変化。
間駒する場所は22ではないのだ。

   32歩、

22合が駄目と言っても13玉では14角成まで。
11玉でも12歩、21玉、32龍。
21玉なら32角成、12玉、22馬。
逃げるもままならぬ。

ところが受け手はあるもので32歩の中合があった。

(32)同龍、11玉、

【失敗図】

またもや限定合での逃れである。
間駒で歩以外の駒を入手できたら1手詰。

かくして作意5手目は

62飛不成、

将来の打歩詰を予測して不成と行く。
打歩詰回避の手筋だ。

   32歩、同飛不成、11玉、

この局面では12歩と打つのが第一感なので省略するが、この局面で31飛不成という紛れがある。
12歩合に12歩、同玉、56角、11玉、12歩を狙った妙手だ。この手にはまたもや21香合という限定合で逃れる。本当に巧くできている作品だ。

12歩、21玉、22歩、12玉、56角、

さていよいよ最後の間駒。Xとしよう。

   23X、同角成、同玉、35飛成、

強い駒から考えていくと飛金銀は簡単。
香も12玉に13香で詰む。
桂馬は?

   12玉、24桂、

【変化図】

以下どう逃げても1手か3手で詰む。

やはり23の間駒は歩だ。

   23歩、

歩合の場合は同角成では詰まない。

21歩成、同玉、22飛成、

同玉でなく13玉は23角成以下駒余りになることを確認して欲しい。

   同玉、23角行成、11玉、12歩、21玉、
32角成まで23手詰。

詰上り正方形。
終局図まで美しい作品だ。

『四百人一局集』で作者は14手目の桂合の変同を残念がっている。
この変化は23手で駒が余らないのだ。
しかしこの変同は評価を落とすものではない。
『詰将棋はコミュニケーション』(CopyRight 若島正)なのである。作者が何を伝えたいかが解答者に伝わらないような変同は評価を落とすかもしれない。
しかし、この作品を解いて桂合を作意と思う人がいるだろうか。(いや、いない)

寧ろ気にするべきは17手目の非限定だろう。

22飛成が作意だが、12飛成でも同じように詰む。

もっと捻くれた解答者だったら

22飛不成でも詰むといいだすかもしれない。

これをいやがらせ不成という。
以下、11玉、12飛不成、21玉、と好きなだけ手を伸ばせる。

こんな解答はただのマナー違反なのである。
したがって、この非限定をつっつくことは重箱の隅をほじくる—ではなくアイスクリームの蓋を舐める行為であるといえる。

時間がなくなったので、「純正飛角図式」については次回に。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください