長谷繁蔵 詰パラ1960.11
前回長谷繁蔵の純正飛角図式の名作を紹介した。流れとして姉妹作である本作も紹介する必要がある。こちらは名作というほどではないが、傑作といって間違いはない。美しい初形、そしてなにより易しいのが良い。19手詰だが、初心の方でも粘れば解けるはずだ。
91ー19ラインで対称の美しい初形。持駒なしの正飛角図式だ。
初形で王手は4通りあるが、馬を捨てるのは無謀だから龍で王手する2通りしかない。
慣れている人には1択。でも順にやっていこう。
15龍、18歩、
【失敗図】
15龍と縦に王手すると歩合されてもうこれは手も足も出ない。
この間駒は同馬と獲るしかないので揮発性の間駒だ。
攻方に渡る駒だから一番弱い歩が玉方にとっては逆に一番強い。
入玉図では横に攻めるのが定跡だ。
59龍、
29に間駒をするしかない。
玉方の持駒は「残り全部」だから豊富なのだが、実は二択しかないことがわかるだろう。
そう利き所のない駒の禁があるので桂香歩は九段目には打てないのだ。
したがって揮発性の間駒であることはわかっていながら玉方の選択肢は金と銀しかない。
29金、
まずは金から考えてみよう。
これは3手詰。
29馬、同飛成、18金まで。
【変化図】
正解は銀合だとわかった。
29銀、
この銀を獲って攻め駒として使うしかない。
(29)同馬、同飛成、
さて銀をどう使うか。
28銀と捨てても無意味だ。
かといって龍を切るのは早計で……
29龍、同玉、
【失敗図】
ちょっと広すぎて持駒飛銀では捕まらない。
そこで龍を切る前に馬を近付けておく。
37馬、
18玉は29龍、同玉、19飛まで。
合駒の一手だが、これは盤面に残る粘着性の間駒。したがって一番強い金が有力だ。逆に一番弱い歩から考えておこう。
28歩、
とうとう龍を切る時期が訪れたようだ。
29龍、同玉、38銀、
【変化図】
馬を近付けたおかげで龍を切ったあと38銀と打つことができる。
これで詰んでいることはお解りだろうか。
19玉なら29飛、18玉、28馬まで。
18玉なら27馬、19玉、18飛まで。
上記の手順で28の間駒が香でも銀でも角でも同じことが確認できる。
残るは上記の27馬を同金ととれる金合しかない。これが正解だ。
28金、
攻め筋は同じだ。(他にない)
29龍、同玉、38銀、
今度は38銀に同金と取ることが可能だ。
しかし実際には同金では19飛で1手詰なので取ることは適わない。
18玉、27銀、
金合の効果で27馬とはできない。しかしやはり19飛をみて27銀という手があった。
29玉
さてここからは7手詰。
38銀では千日手だ。
28馬、同玉、38金、19玉、13飛、29玉、
18飛成まで19手詰
前局と同じ小さなダイヤモンドの詰上り。
用語についてちと蛇足。
詰パラ2月号で柴田氏は本局を紹介し森田正司氏の解説を引用している。そのなかに純正飛角図式と書かれているが、これは間違いだろうと思われる。中編名作選がみつからず確認できていないのだが、『趣向詰名作選』では正飛角図式と正しく記述されている。
1963年の詰将棋規約には用語規格も含まれているがそこに飛角図式ははいっていない。
森田正司氏を中心とした詰将棋研究会が編纂した『古今趣向詰将棋名作選』(1980)が定めた「趣向詰将棋の分類」が事実上の標準になっている。そこでは飛角図式について次のように記述されている。
二、置駒趣向
⑦飛角図式=置駒が玉と飛角各2枚。
☆正飛角図式=無持駒の場合。
☆純飛角図式=成駒のない場合。
☆龍馬図式=成駒ばかりの場合。
それだったら正飛角図式で成駒がないものだったら純正飛角図式だろうというのは昨年に掲示板特典小冊子をまとめたときに筆者が造った用語だ。(誰でもそう考えると思うから発案者とは云わないが)
新しい読者のためにさらに蛇足。
間駒と書いたり合駒と書いたりこのブログはどうも用語が揺れ動くと思われている方もいらっしゃるでしょう。
これはどっちでもいいのです。
私は間遮する駒を省略して間駒が元来だろうと思っています。
合の字は間を略して書いているうちに生まれたのではと睨んでいます。
でも言葉ですからどっちでも正しいのです。中合などは「合」を使います。
字典・辞典・事典と異なる漢字がありますが、どれでも同じことというのと一緒です。(厳密には事典は平凡社の商品名らしいですが、ホチキスとステープラや味の素と旨味調味料を使い分ける必要がある人以外の一般人には同じことです)
変化手順・15龍、12歩 ですが、
2手目・「18歩」かと思います。
指摘ありがとうございます。
訂正しました。