高木秀次『千早城』に登る(14)


※この連載は風みどりが1題ずつ高木秀次作品集『千早城』(1993)を読んでいくものです。

第14番 詰パラ 1966.10改

持駒が多くて苦手なタイプのようだ。
そろそろ自力で解くのは諦めて柿木将棋で鑑賞する頃合いか。
いやいや、それでもまずは自分で考えてからでないと作品のポイントが分らない場合がある。
……と、取り組んでみたら案外あっさり解決した。
初見の方はぜひ挑戦を。

持駒が豊富だが、上部への脱出が気になる。
まずは上から抑える駒である香車を入手しようか。

23歩成、

   同金、12金、同玉、14香、

これで上部脱出を防ごうという考え。
しかしちょっと考えて、この順は駄目だと捨てた。
もちろん13間駒で続かないのだが、もっと明確な理由がある。
この局面に至るのに12金、同玉、23歩成、同角、14香という手順もあるのだ。
これは手順前後の余詰だから作意であることはあり得ない。
この考え方は出題された作品の完全性に依拠しているズルいものだが、解答選手権などでは結構使う。
(スリザーリンクを解く時には「角の2」などはオイラは使わないのだけど詰将棋の場合はあまり罪悪感ないのは不思議)

そこで次に考えたのは初手14桂。

14桂、

15桂はなんのためにあるのか。
これは玉の逃げ道を塞ぐ駒に違いない。
つまり14玉または24玉という変化はあるのだ。
持駒に金が3枚あるので22金打・23金打と14に玉を追い詰め26桂、同と、24金打という変化もあるのではないか。

   13玉、23歩成、同角、

……龍を切って12角という筋も考えてみたが全然捕まりそうにない。
22銀に24玉で35からの脱出が阻めない。

だいたいこの局面も23歩成、同角、14桂でも同じなのでやはり没だ。

22銀、24玉に33龍で詰ますためには31飛車が33に動いてもらえれば良い。
そう気づくしか残っていなかった。
もうこれしかない。

23歩成、同角、33金、

   同飛、14桂、

これなら12玉は13香、同玉、22銀、14玉、13金、24玉、33龍で詰む。

   同角、

さて、ここまで6手は時間がかかったが、この局面になれば作者の狙いは見えてきた。
ここからは一気に手が進む。

13金、

   同飛、11銀、

   同飛、31銀、

   同飛、

飛車の翻弄。
いやこの場合はその飛車が綺麗なフィギア—正方形—を描いて1回転するからルントラウフだ。
ルントラウフという用語は近年チェスプロブレムから輸入された物(独逸語?)だが、このテーマは古く、看寿にもある。ただ名前がつけられていなかっただけだ。
使う方によって定義は色々だが筆者はRundlauf(roundtrip)という原義を尊重して、昔のフィギアスケートのように「駒が図形を1回転して描く」美しさを讃えたい時に使うことにしている。

13金、11玉、

あとは収束だ。
ここでちょっと考えた。
23桂、同角、12香、同角、同金と精算するのは角1枚では足らなそうだ。
とすると……あ、龍がきちんと消えるのか!

12香、21玉、33桂、同飛、11香成、同玉、
41龍、同角、12銀まで23手詰。

玉方の飛車をさらにもう一度動かして、主駒の龍を消しての詰上り。
さすが高木秀次というべき楽しい作品だ。

おそらく作者としては易しすぎるということで発表しなかったのだろうが、筆者にとっては十分楽しめる難易度でした。


(追記)2022.7.31
飯尾さんの指摘で初出を追加しました。
発表図は51歩がありません。
余詰があって修正したのかと思ったが、柿木将棋で調べた限り余詰もない。
なぜ51歩を配置したかは謎。

「高木秀次『千早城』に登る(14)」への2件のフィードバック

  1. おっと巻末の出典一覧になかったので手抜きしてました。
    ありがとうございます。

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