長編詰将棋の世界(13) 直線コースをピストンで走る玉

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

菅野哲郎「竜馬が行くV」詰パラ2010.6


棋譜ファイル

84銀引生、76玉、87角、同玉、57龍、
{67と、65角、76角、同角、同玉、54角、
65角、同角、同玉、43角、54角、同角成、
同玉、32角、43角、同角成、同玉、21角、
32角、同角成、同玉、41角、43玉、52角成、
54玉、53馬、65玉、64馬、76玉、75馬、
87玉、86馬、98玉76馬、87角
}=
48龍、68と、87馬、同玉、37龍、
38龍、68と、87馬、同玉、37龍、
28龍、68と、87馬、同玉、17龍、
18龍、68と、87馬、同玉、17龍、
28龍、68と、87馬、同玉、37龍、
48龍、68と、87馬、同玉、65角、76角、
同角、同玉、54角、65角、同角、同玉、
43角、54角、同角成、同玉、32角、43角、
同角成、同玉、21角、32角、同角成、同玉、
41角、43玉、52角成、54玉、53馬、65玉、
75馬、54玉、45龍、同玉、46歩、同玉、
47歩、同玉、65馬56角、57金、37玉、
55馬、27玉、28歩、17玉、16金まで287手詰

67角合は同龍、同香成、65角、76飛、同角、同玉、54角、66玉、76飛まで
67香成は65角、76角、67龍、同と、88香、98玉、76角迄
48龍は58角で逆王手
32玉は31桂成、同玉、41馬、
56飛合は同馬、同歩、48飛、37玉、28金迄

☆前局と対になる作品。盤に並べれば自明だがやはり全駒使用。さらに攻方玉まで配置されている。

☆84銀生に76玉。87角の一手に同玉57龍で持駒は互いに角1枚ずつ。角打角合の趣向が見えてきた。

☆67角の逆王手が気になるが変化イでかわるように有効ではない。となれば受け手は定番の67と。香成だと65角76角を交換してから67龍と切って、88香と打てるので簡単。88歩は二歩禁だ。角打角合の玉の移動エンジンより先に鍵の方が見えてきた。七段八段の龍鋸である。

☆龍鋸の目的は言うまでもない、38と18に落ちている歩を拾ってくることだ。収束は48龍または47龍まで戻してからになるだろう。その意味付けとして有力なのは45金の質駒。つまり45龍という手が収束の入り口として出現することが予想できる。57龍と近づける可能性もあるが薄い。

☆まだ作意手順は6手しか進めていないのに、配置からここまでのことがわかる。このような解き方は実戦派の方にすれば邪道かもしれないが、実際詰パラ読者の大半は同様に「見えてしまう」ことだろう。

☆ということは、そんなに簡単に見透かされてしまうような作品構造ではパズルになっていないと言うことだ。作家はパズルとして成立させるためには構造を見透かされないように隠蔽するか、もしくは予想させておいてそれを上回る内容を盛り込んでおく必要がある。罠を仕掛けておくというのもあり得るが、これはお勧めしない。

☆さて作意を進めよう。龍鋸を進めるには48龍であるが、そのためには98玉の形にする必要がある。角1枚でどうやって98玉の形にするのか。

☆65角とするしかないが76角の合駒しかない。同角同玉以下角打角合で引きずりおろすのは予想通り。32玉まで進めて21角では23玉で続かない。さらば41角しかないが43玉と戻ると52角成以外に手がない。ここでまた32玉なら今度は31桂成ができることに気づく。

☆これでUターンができた。帰り道は馬で追いあげていけばよい。86馬98玉で目的が達成できた。

☆ただし注意されたし。ここで慌てて48龍だと58角と逆王手される。ここでの誤解者が3名も出た。七段龍に対しては67角の逆王手が無効だったことが心理的な罠になっていたようだ。

☆76馬87角と持駒をなくしてから48龍が慎重な駒運び。これならば68との移動合しかない。87馬同玉に37龍とすればさきほどと同じ形(違いは龍の位置のみ)これで1サイクルが解明された。

☆それでは収束だ。48龍68と持駒歩2の形から45龍と切るタイミングを計ってみる。玉の位置は54しかないから、あとは角の状況の違いだけ。考えられるのは(1)持駒角の形(2)32角43角の形(3)52馬の形(4)75馬の形。この4つ。

☆どの場合が45龍同玉となったときに有利か。(2)(3)は問題外で(1)か(4)に間違いない。仮に持駒角で進めてみる。46歩同玉47歩同玉57金37玉46角27玉…1枚足りない。

☆75馬の場合はどうなるのか。47玉に対して65馬と活用する手がある。飛合は同馬で簡単なので56角合。57金37玉55馬と1歩補充してめでたしめでたし、これで解決だ。

☆57金と打つために47龍67との交換はしないところも確認しておこう。

☆収束で歩の数を間違えて誤解された方が三名。先ほどの三名とあわせ「やさ院」の看板にそぐわない数の誤解者をうんでしまった。

神谷 薫 17龍に27歩成移動合は有効合だと思う。

☆持駒が歩3枚になると47龍の形からでも収束できる。なので作意のように17→28→37→48と動かさなくても、27→38→47で収束に入れるので早く詰みます。

☆一往復40手のロングコースをおよそ七往復。繰り返し手順のリズムを楽しむには充分な長さだ。

☆「龍馬がゆくIV」が\((飛打飛合+龍追)\times 馬鋸\)という構成に対し、本局は\((角打角合+馬追)\times 龍鋸\)という構造。美しい対称性だ。

☆なんと手順前後の瑕まで対称的に存在する。七段龍の王手のタイミングだ。作意は87玉持駒角の形でn7龍とするが、復路の途中、すなわち87玉75馬の形でも同じことだ。つまり作意は1サイクルで2回ずつ龍を動かすが、1サイクルに1回しか動かさず、次のサイクルで3回龍を動かすこともできるわけだ。構造的に不可避な手順前後と判断されたか、解答者からの指摘はなかった。

中出慶一 2、3ともオリジナル趣向ゆえ、「やさしい大学院」でなく、通常の「大学院」で十分です。
詰鬼人 二局ともに飛合角合を絡ませて歩を取りに行く似たような構想で巧い命名です。
須川卓二 この作者、いつの日か千手超えとかやってくれそうで楽しみです。

加賀孝志 いや一苦労。一歩をかせぐのによく手が伸びる。リズムがわかると易しいが収束まで息が抜けなかった。
竹中健一 よくみたら合駒が…(笑)。収束はこれでいけてますかね?合っているか分かりませんが、楽しく解けました!
中沢照夫 角追いと龍鋸の組み合わせ。命名通り。47ではなく48龍の位置から収束にはいるのがポイント。最後に1、2筋の駒が働く詰めあがりも好感。
武田静山 逆王手が無いとわかれば後は手数の確認。
今川健一 今度は角打角合、竜鋸ですか、巧いものですね。易しい?、それは1歩を取るまでのこと。どこで収束に入るか、けっこう悩ましい。2作そろって巧みな趣向、詰将棋の面白さを堪能です。
永島勝利 収束の変奏曲部分が結構難しかったですよ。つい47龍67とを利かしておきたくなりますが、それでは詰まないとか、76馬のアクセントのタイミングとか、決して単純ではありません。でも、題名に加えて、280手台というのは、大きなヒントでした。
鈴木 彊 収束や駒余りの詰めがでる難点があるが、馬と龍を組み合わせた手順は実に面白く素晴らしい物でした。
坂東仁市 馬になって戻ってくる所が奇抜。小生と感性似てるのでストック作との衝突が心配になってきました。
宮本慎一 龍鋸で歩を取りに行って戻り、馬で玉の上下の鬼ごっこ。

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