詰将棋入門(212) もう一マス遠くから

小西逸生『紅玉』第55番 近将1958.9

小西逸生といえば解答者心理を的確に読みきった職人芸の短編手筋物がもう芸術の域に達している作家だ。
しかし実は芸域はもっと広い。いくつか作品を紹介していきたい。

持駒に金がなくサラサラでているので、24玉とされたら逃げられそうだ。
かといって35角成では22玉、34桂、同金、……以下手は続くがどうも手応えがない。
(35角成に24金なら25桂で詰む)
53角は31角成と使うべき駒のように見受けられる。

すると初手は持駒の角を打ちたくなってくる。

35角、

24に間駒は

   24合、25桂、22玉、31角成まで

ちゃんと33を25桂が押さえているのがミソ。
24金の移動合は……

   24金、

25桂は23玉から34玉が防げない。

(24)同角、23玉、34銀、24玉、35金、

この変化がなかなか巧い。
24角と切って落とす。
これを同玉だと35銀から24金とアタマから押さえて31角成まで。
そこで23玉とよろめくが34銀、24玉に35金と控えて打つのがまた好手。
15玉なら25金から26角成だし、13玉なら31角成、22合、25桂までだ。

ところがやはり間駒せずに22玉が困る……。

   22玉、31角成、33玉、

【失敗図】

25桂と打たれる前にさっさと逃げ出すのが延命のコツなのだ。
33玉と
こちらから顔を出せば、攻方にはもう逃走を防ぐ手段は残っていない。

さて、それではどうしますかというのが、作者の設けた設問なのだ。

正解は35角ではなく、もう一マス遠くから打つ46角。

46角、

遠くから打ったら余計上部脱出を阻めないのではないかというのが常識だがさにあらず。

   22玉、11銀、33玉、25桂、34玉、35角成まで

【変化図】

なんと35が空いていれば銀を手放して33玉に桂馬1枚で詰むのだ!
これが作者の狙いだった。

しかし「大駒は近付けて受けよ」の中合はどうなるのだろうか。

46角、35歩、

しかしこれも実は簡単だ。

25桂、24玉、35角成、

【変化図】

以下15玉に37角、26合、16銀、同玉、26馬までだ。
25桂が今度は退路としての33を押さえている。

そこで作意は11銀に21玉と下がる順になる。

46角、22玉、11銀、21玉、

後は手順に進めていけば詰む。、

31角成、12玉、13角成、

狙いの46角を証拠隠滅で捌くところがいい感じ。

   11玉、22馬引、

最後は軽く打歩詰打開。

   同金、23桂、同金、12歩、21玉、
31歩成まで15手詰

狙いの46角とその仕掛を一切残さない後片付けが拡張高い。

さて、この初手46角はいわゆる以遠打とも微妙に異なる。46角、57角、68角は詰むが、79角は不詰だ。限定打とはいえず以遠打ともいえず、まぁ非限定ということだ。

最近の若い人の中にはこれらの非限定を極端に嫌う方がいらっしゃる。

この非限定を消すには例えば下図のように37香とでも配置すれば良い。

しかし筆者を含めロートル勢はこの37香に「否」と答えるだろう。
もちろん筆者だって非限定はないにこしたことはないと考えている。
しかし比較の問題でこんな所に香を配置したら非限定のキズを消すプラスよりも、作品全体の味をなくしてしまうマイナスの方が断然大きいと判断するわけだ。

例えば下図に玉方81歩を配置するだろうか。


次の図に玉方11歩を配置するだろうか。

詰将棋は現代ルールを採用した時点でパズルとしては不成立になり、もっと情緒的なものに変質したということを認識するべきなのである。

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