長編詰将棋の世界(18) 双玉鶯図式の都煙

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

選題の言葉 (2010.09)

 話題の新刊「この詰将棋がすごい!2010」の中で伊藤正さんが次のように語っている。
 「煙詰創作というハードルがけっこう手頃なんですよね。ちょっと努力すればできる、という高さ。100メートル走で言えば15秒の壁、というくらいかな。10秒で走るのはむずかしいけど、15秒なら、という」
 伊藤さんの「ちょっと努力」がどのくらいの質量なのか想像しがたいが、「天女」「月蝕」の作者が言うことなのだから間違いあるまい。
 この刺激的な文章を読んだ若者達よ、15秒を目指して走り出して欲しい。伊藤さんは10秒の作品を投稿プリーズ!

岡村孝雄「月下美人は二度咲く」 詰パラ2010.9

棋譜ファイル

57と右、55玉、66と、同玉、76と、同玉、
87と左、同と、67と右、86玉、87と、95玉、
86と、94玉、93と、同玉、94歩、同玉、
95歩、93玉、92と、同玉、84桂、93玉、
94歩、同玉、85と、93玉、92桂成、同玉、
93歩、同玉、84と、92玉、91と、同玉、
92歩、同玉、93歩、91玉、81香成、同玉、
92歩成、同玉、82歩成、同玉、83と、91玉、
82と、同成香、同香成、同玉、83桂成、81玉、
71と、同玉、62と、同玉、63歩、52玉、
51桂成、同玉、53香52桂、同香成、同玉、
64桂、51玉、62歩成、同玉、73成桂、51玉、
52桂成、同玉、53桂成、同玉、63成桂、54玉、
64成桂、55玉、65成桂まで81手詰

52歩合は62歩成、同玉、73桂成、51玉、52香成、同玉、63成桂、51玉、52歩以下

☆盤面をみて飛車角金銀が存在しないことに気づく。逆に歩香桂はすべて登場している。歩桂香図式これは通称「鶯図式」と呼ばれている。王~歩桂香で鶯の鳴き声をしゃれているわけ。

☆冒頭の4手は48とを消費して55歩を消去した結果になっている。なんの為に?そうこの4手がなんと60手後に効いてくる伏線なのだ。このスパンの長さが長編ならではの醍醐味だ。

☆76と同玉67と右と端に追いたい所を堪えて、先に87と左を効かせておくのが気の利いたジャブだ。以下は変化の少ない平易な手順が続くだけに、この序盤の伏線と手順前後の罠が作品の香りをたたせるスパイスになっている。

☆その後は軽快な手順が進行し、特に難しいところはない。93歩を置いてから82香を消去し92歩成82歩成と攻める辺り巧いものだと感心するくらいだ。その直後に手が止まる。

【途中図】

☆収束直前、最後の難所。43桂を捌くには結局この局面で63歩と打つ必要がある。52玉でも61玉でも同じことで、ここは非限定。51桂成同玉に合駒を訊く53香。桂合を喰って64桂とおけば、以降の収束は一瀉千里であったはずだ。

【詰上図】

☆双玉鶯図式の都煙。煙詰のサブセットを網羅的に探求をしている岡村氏の新たな成果だ。「煙」と呼ぶべきかどうかという議論は重要と思われない。桂香歩全駒の初形から桂香歩1枚ずつの詰上がり図に至る作者の錬成の結果を味わってもらえればよい。

作者 双玉の都煙にすれば鶯図式も煙る、という発想には先例がありましたが、そのことが却って、煙ること以上のセールスポイントを目指す動機となりました。
狙いは序奏の伏線的歩消去。意味は60手後の変化、52歩合で現れます。
序と収束を繋ぐ中間部についても左上で歩の消費を増やす工夫ができ、桂合入り収束の発見が花へと育ったことに満足しています。解くにも易しく、楽しめる内容に仕上がったと思います。

☆先例とは小野小町作「月下美人」パラ90.1不完全。タイトルはこの作品に敬意を表しているわけだ。

☆さて作者の言うセールスポイントとはもちろん冒頭4手の変化伏線。その意味は変化イにあらわれる。53香に52歩合とされたときに52歩と打てるように備えておく必要があったのだ。

躑躅 都還元にしなかったのは最初の変化伏線を入れるため?

☆慧眼の通り、実は本作には初形都玉の案も存在する。しかし、変化伏線を採った作者の選択は正解だった。

凡骨生 55歩を消去して置く伏線手は最後に解ったが難渋しました。
昭和三十六才 最初に55歩を消したり、7手目先に87と左としておくなど、繊細さが感じられる。
佐藤 司 双玉+ウグイスの群れ=双玉+ウグイスが1羽ずつ、この作者は本当に芸が広いですね。
作者 詰上り5枚になることを逆手に取って、桂香歩を1枚ずつ使う詰上り。易しい問題と思いますが、「7手目67と右」の手拍子だけは要注意?

☆犠牲者は4名でした。

斎藤博久 小駒の貧乏図式では最高級だと思う。
原田清実 煙らないわけはないと思って挑戦しましたが、この条件で煙らせてしまうことに驚きました。それに加えて55歩の消去まで入るし、お願いですから「ちょっとの努力」とか言わないで。

竹中健一 48との配置の意味に気付けば初手からの伏線は発見しやすい。。。でもそんなこと考えずに楽しく解けました!
弘光弘 55歩消去の伏線と桂合が入っていてよい。
葉井来人 井ロードの手触りのように繊細な時が流れ駒が消えてゆく。序の伏線を見逃し花を2度楽しめた。
池田俊哉 うぐいす都双玉煙と言う珍品、特に9筋のさばきが楽しい。初手の邪魔歩消去は見えるところだが、意味づけが変化(52歩合)に隠れた辺りはさすがの構成。
詰鬼人  小駒作品らしい、細かく手をを繋いでいくのは気持ちの良い手順です。
武田静山 小駒図式は久しぶり、変化がすぐ割り切れて小気味よい。
永島勝利 収束、逆王手含みの角合が作意かと思ったが、良い意味で裏切られた。良くを言えば54香から53への捨合を入れられると良かったが、無理筋かな?
原 雅彦 中盤もたつくも51桂成を目標に。
宮本慎一 と金が消滅し1枚だけと金が残り、玉と成桂で玉を都詰に!
吉川慎耶 長い長い伏線。
野口賢治 飛角無し貧乏煙に加えて無謀とも思える双玉都煙で詰上がり5枚はやむなし。エキスパートとして月下美人を何度でも咲かせて欲しいものである。
福村 努 非限定60手目61玉
廣瀬崇幹 伏線で頭4手で一度玉が都へ。そして詰上がりで再び都へ。「二度咲く」というのは「2度都へ玉が行く」という解釈でいいんでしょうか?一旦93歩をすえてからの92歩成~82歩成など細かい所まで良くできているなぁと思いました。銀がない状態でここまで作ってしまうとは…感服。
国兼秀旗 まさに奇跡としか言いようがない神品「鶯都煙」。途中で煙ることはわかったが、単なる鶯煙だと思っていた。収束で都煙だとわかったときの衝撃は筆舌に尽くしがたい。
中沢照夫 まず55歩消去の伏線。メインは89香の威力を生かした棒と金。実に巧みな駒消去。最後は桂の詰み崩しが入って抜群の解後感。
鈴木 彊 見事な双玉都詰。桂香歩の全駒使用での準煙詰と言っても良いでしょう。拍手拍手、感動です。
加賀孝志 都玉では最小限の駒数。合も入り成功。さわやかな夏バテを解消してくれました。
躑躅  易しいうぐいす煙。都還元にしなかったのは最初の変化伏線を入れるため?
和田 登 小駒図式の好作
 小駒双玉図式都詰の、理論上最少駒数詰め上がり、つまり煙詰ということですね。手順は易しいですが、攻方玉をうまく利用してぐるっと一回転。
名越健将 双玉・都・準煙、81手の好局。やや追い詰めの感もあるが、82歩成の辺りが成立している事が不思議。
須川卓二 変化の為の序の4手が、作品の質をグンと上げてますね。私もちゃんと2度解きました。
今川健一 冒頭に伏線あり、これが素晴らしい。謎解きの妙味、ここに在りです。初手、67と右と追いかけると、64手目に歩合で2歩禁。アレッ?、と言うことになる。 序に65歩を消去しておく。ハイ、「待った」をしました。
護堂浩之 良くも悪くも、この収束形(と、54香以降の収束)の発見が価値だと思うが、純粋に手順だけ鑑賞すると、やはり中盤が単調に思えてしまい、この条件の一号局、という以上の積極的な評価をしにくいのも、正直なところ。厳しい条件だとは思うが、あるいは、この条件(うぐいす都煙)だと、あるいは、双玉の方が楽なのだろうか。一つ興味があるのは、初手からの伏線は逆算当初からの想定範囲内だったのか、還元玉のつもりだったのが、最後に入れられることに気付いたのか、どっちだったのだろう。解く立場からすると(48とが残りそうなので)手拍子で指してしまいそうだが、確かによく入ったものである。

☆最後に作者からスペシャルプレゼント。本作の更にもう一つの別案なれど本邦初の条件作と言うことだ。

岡村孝雄 別案

参考図 小野小町「月下美人」 詰パラ1990.1

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