高木秀次『千早城』に登る(20)


※この連載は風みどりが1題ずつ高木秀次作品集『千早城』(1993)を読んでいくものです。

第20番 不明

本作は解くことができた。久しぶりに解けてうれしい。

はじめに着手した手は89角。同玉は87龍で、77玉は78金で詰みそうだから。

89角、69玉、68金、79玉、78金、69玉、

これは千日手だ。
次に考えたのは初手68金、79玉、99龍……
あれ?これで詰んでいると思ったら、91香がいた。

次に着手してみたのが87龍。

87龍、

同玉も九段目に逃げるのも簡単に詰むから、これは作意かな。

   77玉、

平凡に68金では56玉以下45に逃げ出されそうだ。
それでは45角とここを埋めてみようか。
間駒はできないし、57玉は66角で詰む。

ところが素直に同とで68金、56玉でもう手がない。
(失敗図は略)

それで次に78角とやってみた。

78角、57玉、66角、68玉、57角まで7手詰。

あれ?たった7手で金が余って詰んでしまった。
もう一度図面を確かめたが、今回はあっている。

これは早詰だ。

これで終わりでは早すぎるのでもう少し作意を探すよう粘ってみよう。
……と暫く考えたが、全然作意が見えてこない。

そこで今回はちらっと正解を覗いてみることにした。次の手だけみてみよう。後は視ないようにして。

66角、

作意は66角だった。
間駒の変化もありやりにくい手だ。
これを逆算していて入れたくなったという気持は分る。
77間駒なら78角と打つのだからなぜこの余詰に気づかなかったんだろうと不思議に思うが、余詰とはそういうもの。

さて作意を考えていこう。

   56玉、57龍、45玉、

下段に逃げられそうだが、よくみると52との威力が大きく、玉は案外に狭い。
まっさきに見えたのは次の手

36金、

36玉を妨げるためだけだったら27金と配置することはありえない。
「捨ててください」という声が聞こえる。
さらに36同玉なら……

27角、25玉、15金、

以下ピッタリ捕まる。
短編を解く時によく使用する「ピッタリした変化があればそれは作意!」という諺がある。
(良い子の皆さんは真似をしない方がいいかな……)

36金を取らずに逃げても、

   54玉、53金、44玉、35角、

(最初は龍を切っていたがよく考えるとその必要はなかった)
簡単に捕まえることができる。

そこで作意は同香だ。

   (36)同香、

この局面になれば次の手も自然に見えてくる。

56龍、

これは何故見えるかというと、それこそ手の筋—流れなのだ。
57龍と平凡な手を配置したのだから次は捨駒をしてその次はこの龍を捨てるのが筋。
36金、同香で34の地点を空けたというのが意味づけだ。

次の変化をみている。

   同玉、34角、

間駒でも66玉でも47玉でも金打ちで1手詰。

56龍を取らないで下段に落ちようとしても変化はあるがどれも捕まっている。
同との一手だ。

   同と、

正直に告白するとこれが作意と信じていたオイラはこの局面で数秒間も考えた。
そして54角、同玉、44金、63玉、53金までで詰んでしまう。変化順の方が長くないか?などとバカなことを考えた後、44金の1手詰に気づいた。

アレレ?それじゃ56同玉が作意???

それからようやくと金がもう1枚存在したことに思い至ったのである。

   (56)同と右、

この局面に来て、突然道が消えたように感じた。
いつのまにか短編手筋物の感覚になっていたのだ。
そうだ、『千早城』第1部は手数順に並んでいる。前回が33手詰。
本作は33手以上。まだ10手しか進んでいない。

そう考えてやっと手が見えてきた。

54角、

これは気持の良い手。

   同玉、64銀成、同玉、75角、

これで10手目の局面で作者が何を考えていたかが見えてきた。
短編作家なら思いもよらないことだ。
恐らく作者は、あの局面で66角を消すことを考えていたのだ。

   64玉、53角成、72玉、73金、81玉、
71馬、

ここまでくればあとは11手でワンセットの収束手順だ。

   同玉、83桂、81玉、91桂成、同玉、
93香、81玉、92香成、同玉、83銀成、91玉、
82金まで33手詰。

本作は龍を捌き捨てるあたりが中心の手筋物なのだが、古典詰将棋の作法—大駒はすべて捌ききり詰上がりは小駒だけの図にする–に則って仕上げられた作品。

柿木将棋で余詰を検索してみると、最初に入った3手目78角の順以外に68角もあるらしい。
また中心手の一つである7手目36金の所で、36角、同香、同金、35金以下の余詰もある。

これらはかなり変化や構図の変更を伴わなければ修正は難しそうだ。

さて蛇足をひとつ。

この局面で高木秀次は「さて収束だがどうやって66角を捌こうか」と考えたと書いた。

短編作家のオイラは何を考えたかというと「71桂は成桂にしたい」だ。

10人いれば9人は「なんでわざわざそんな悪形に」と思うだろうが、1人くらいは「わかる」といってくれると思うんだな。

……と書いたけどやはり心配になってきたのでアンケートをとってみよう。

「高木秀次『千早城』に登る(20)」への2件のフィードバック

  1. Twitterからではありませんが、71成桂の意図がわかりません。
    解説いただけるとありがたいです。

    1. アンケート投票も1票しか入らず……「わからない」でした。

      いやたいしたことじゃないんです。
      折角の54角なんだから63角と打てる余地を残しておきたいと考えただけです。

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