今田政一 詰将棋パラダイス 1969.9
最近はスイッチバックとかルントラウフとかチェス・プロブレムから輸入した駒の軌跡をテーマにした作品も増えてきた。(昨日の創棋会の課題も!)
詰将棋における駒の軌跡テーマで昔からあるのは玉の周辺巡り。
初形95におわす玉が四隅を巡って戻ってくる様子を愉しまれたい。
非常に厳しい条件なので、当初はあまり厳密な定義をせずに周辺巡りで通用させていたようである。
本作は
- 周辺をすべて通過している。
- 一度も周辺からはみ出ることがない。
- 一度も後戻りしない。
- 還元玉で詰む。
という条件を満たしているので純周辺巡りと呼ぶようだ。
手順は極めて易しい。
94と、同玉、93と、同玉、95香、94歩、92と、同玉、94香、93歩、91と、同玉、
94とに96玉なら97香、同玉、87金、同角成、98飛以下
93とに95玉なら97香、96合、86金、同歩、94とまで。
変化という変化はこれくらいで、あとは手順の解説が必要な所はない。
93香不成、92歩、81歩成、同玉、92香成、71玉、82成香、61玉、
62歩、51玉、53香不成、41玉、52香成、31玉、42飛成、21玉、13桂、11玉、
31龍、12玉、21龍、13玉、14歩、同玉、15歩、同玉、25龍、同成銀、同と、16玉、26と、17玉、28銀打、同と、同銀、18玉、19銀、同玉、
18金、29玉、28飛、39玉、49馬、同玉、48飛、59玉、49金、69玉、68飛、79玉、78金、89玉、98角、99玉、
69飛、98玉、99歩、97玉、67飛、96玉、88桂、95玉、97飛 まで75手詰
詰将棋は手順の難解さだけではないということであろう。
キズといえるのは20手目(途中図)で68飛という迂回手順が成立すること(筆者だったら玉方64歩ぐらい置くだろう)と、30手目(途中図)で41龍や51龍でもよいこと(22玉を許すので悔しいがこれは仕方ないだろう)ぐらいで、お見事というしかない。
ところでこの連載を続けて読まれている方は「急に新しい作品がでてきたな」と訝しく思われたことだろう。
大正から昭和初期に発行された「将棋月報」の話だったはずだからだ。
今田政一は「将棋月報」で活躍された作家だ。
「将棋龍光」(1941将棋月報社)という作品集もだしている。
この連載にふさわしい易しい作品を探していて1969年の詰パラに作品を見つけて目を疑った。
結果稿で大先輩である黒川一郎をして次のように書いている。
此の作者あまりにも有名な方と同じ名なので、珍しい新人かなと思っていたが、驚く勿れ矢張り御本尊であった。即ち月報時代の覇者であり、将棋龍光の著者である大ベテラン。嗚呼、龍は老いず。深淵の眠り覚めて今蒼海を割って躍り出ず。
この「周辺巡り」というテーマ自体、将棋月報誌で有馬康晴が作品募集したものらしい。
仮に創作開始がそのときだと想像すると、この完成図を得るまでに一体何年かけたのだろう。
なんだか嬉しくなってしまうのは、筆者だけではあるまい。
今田政一に乾杯!
なお周辺巡りに興味を持たれた方は、山田修司の「鳩」という作品を探してみると良いだろう。
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> 筆者だったら玉方64歩ぐらい置くだろう
そうか、こんな迂回手順が成立していたんですか……。
私だと、それなら68飛、66銀の配置にしようとするかな。合駒の位置は限定できそうだし……。余詰があるかも知れませんが。
護堂さん、お久しぶりです。
>私だと、それなら68飛、66銀の配置にしようとするかな。
なるほどですね。
ところで純周辺巡りの用語は合っていますか?
黒川さん(でしたよね?)は、はじめに「純周辺巡りという」と書いておいて、その後は「完全周辺巡り」としか書いていないんです。
えーと、この辺の用語の定義について、私に訊かないでください……。(本来の使い方とは別に、自分の認識に曲げてしまっている可能性があるので――)
基本的には、この定義だと思うのですが、私自身が、黒川さんの形容する“四隅巡り”を周辺巡りと呼んでいたときにこの用語と出会っているため、それこそ、踏み出すが四辺32マスは通過するもの等を何と呼ぶのか、判りません……。
お役にたてず、申し訳ありません。
いえいえ、充分です。
こういうのはやはり大塚播州さんに尋ねるのが一番ですかね。