長谷繁蔵 詰パラ1962.9
本作は森田手筋ではないが、森田正司1959や北川邦男1960に影響を受けていた可能性は高いと思う。しかし本作の面白さはまたちょっと違ったところにある。
初手は58龍と行きたいが、29玉と潜られて困る。
59龍とさらに追っても49金合ぐらいでお手上げだ。
27銀、29玉、18銀、38玉、
先ずは銀を組み替えて29を押さえ17馬の働きを強める。
すでに39が埋まれば27馬までの詰みが見える。
58龍、
さて満を持して58龍。間駒の選択だ。
まずは歩から考えていこう。
48歩、
間駒をした段階で打歩詰の局面になった。
残り5手詰といえば、手が見えるだろうか?
49龍、
76角の利きを利用して49龍と捨てるのが好手だ。
同歩成、
九段目だから同歩不成とはできない。
39歩、同と、27馬まで
【変化図】
この攻めはかなり強力だ。
歩合でなくても例えば香合でも同じように詰む。
なにしろ盤上に利きが無い駒の存在は禁じられているから、何を合しても同じだろう…………いや、1つだけあった。
48銀、
この48銀合が作者の狙いだ。
同じように攻めると……
49龍、
同銀不成、
【失敗図】
銀だけは49龍を取ることができて、かつ不成とすることで39に利きを作らないことが可能なのだ。
それではどうするか。攻方はこの銀を動かさずに、58龍を消去する方法を考えるのである。
27銀、29玉、69龍、
再び銀を動かして九段目に玉を呼び、69龍とソッポ(外方)に捨てる!
この形なら金も銀も入手したら簡単だし同香成と取るしかない。49桂成は変同だろうって、ソーユーのを重箱の隅をつつくアイスクリームの蓋を舐めるというんだヨ。
同香成、18銀、38玉、
58龍が消え、48銀がアンピンされた。
39歩、同銀成、27馬まで15手詰
作意表面に現れない49銀不成。奥ゆかしい!
念の為に書いておくと、本作は取歩駒の銀が合駒で発生しているし、アンピンによって打歩詰を打開している。だからこれも森田手筋ではないかと考える方もいらっしゃるかもしれぬ。
しかし、森田手筋は①取歩駒の発生+②アンピン(CopyRight久保紀貴)なのだが、本作は①の条件を満たしていない。48龍によって打歩詰の状態になるので、間駒を発生させたのは攻方の意思ではない。
さらに蛇足だが書いておこう。
森田手筋であるかどうかが本作の価値を左右するものではない。詰将棋はトリックテイキングのゲームではない。森田手筋であってもツマラナイ作品はツマラナイ。
通常の詰将棋は「巧い攻め筋」を表現するものが多く、いわば一方的に攻方が勝つ。
本局は49龍という巧い攻め筋を目指すのだが、玉方が49銀不成という妙手を秘めた48銀という優れた対抗手段を打つ。そこで攻方は69龍というさらに上回る妙手を繰り出す、という三段構成になっている。いわば攻防を表現した立体的な作品なのだ。
お世話になります。
(作意手順ですが)13手目・39歩かと思います。
ご指摘ありがとうございます。
直しました!