長編詰将棋の世界(33) そこにある一歩を手に入れる

2010.1から3年半続けた詰パラ大学院での解説の再録です。

選題の言葉(2011.4)

 まだまだひよっこの筆者であるが、それでも三十年以上パラと遊んできた。その間ずっと名前を見かける方も多い。嬉しい事だ。新しい人の名前を見つける事も嬉しい。これからの成長への期待にわくわくする。そして、いつの間にか名前を見る事が無くなっていた方が久しぶりに登場する事もある。これまた実に嬉しいものだ。
 待つ事久しかった上田吉一がとうとうパラに還ってきた。どうか圧倒的に多くの解答で帰還を祝福して頂きたい。
 上田作。比較的軽い作品ですが、氏の推敲の鑿の深さを味わってください。菅野作はいつもながらの人に優しい楽しめる作品。しかし、ゆめゆめ油断はなされませぬように。

上田吉一 詰パラ2011.4

棋譜ファイル

44馬、35歩、同飛、25歩、A24銀、同玉、
34飛、23玉、24銀、12玉、13銀成、同玉、
35馬、23玉、24飛、12玉、13歩、同玉、
54飛、23玉、24飛、12玉、13歩、同玉、
74飛、23玉、34馬、13玉、79角、68歩、
35馬、23玉、24飛、12玉、13歩、同玉、
64飛、23玉、34馬、13玉、68角、57歩、
35馬、23玉、24飛、12玉、13歩、同玉、
54飛、23玉、34馬、13玉、57角、46歩、
35馬、23玉、24飛、12玉、13歩、同玉、
44飛、23玉、34馬、13玉、46角、同飛、
35馬、23玉、24飛、13玉、84飛、23玉、
24飛、13玉、25桂、同桂、14飛、同玉、
15歩、同玉、16歩、同玉、17歩、同桂成、
25銀、15玉、27桂、同成桂、16歩、同飛、
同銀、同玉、28桂、同成桂、17飛迄95手詰

25金は同飛、同銀、27桂、14玉、24金、同玉、35馬、14玉、26桂、同銀、25銀、同桂、同馬、23玉、24銀、12玉、13歩以下
A 27桂、26玉、33飛成、44香、35龍、17玉、18銀、28玉、17銀打、同飛成、同銀、同玉、29桂、28玉以下不詰

☆想定読者の思考経過を文章にしてみる。

★綺麗でちょっと考えてみたくなる初形だな。26に逃がしたくない。44馬と開き王手でどうだ。あれ65香は27桂で詰んじゃうぞ。そうか中合があった。飛車と馬の焦点に35歩。同飛の一手にまた歩合か。金合は同飛から27桂で確かに詰む(変化イ)。これは作意に入っている感じがする。銀を捨てて飛車を働かせれば…これは飛と馬のバッテリーで連取りの構図だ。でも取れる駒が54歩と84歩しかないよ。とりあえず取ってみるか。次の謎は97角の使い方か。79角では香が利いてる。…なるほど、74飛と塞いでおけばいいのか。この飛車と角の連携がメインディッシュというわけだ。各駅停車の角が楽しいね。最後は守備の要の16飛車が動くので収束。…あれあれ?歩が1枚足りないぞ。数え間違えたかな?

☆解答者には小さな課題が少しずつ与えられる。それを解決していく内に物語にどんどん引き込まれ、やがてもはや引き返せない状況で大きな課題に気がつく。これがこの作品の構造だ。

今川健一 解けて良かった、解いて良かった、こんな解後感がある作品です。飛車で香の利きを遮っての角の移動、この趣向を発見できたことは嬉しい。84歩を取ってからの収束も見事な出来映えです。少し早いが、今期の看寿賞はこれで決まり?
斎藤博久 この趣向は新鮮な感じがする。
竹中健一 これは面白い!配置から想像した通りの楽しい趣向でした!
武田静山 試行錯誤の末、軌道に乗り始めたときはチョット感動。

☆最後の謎である「1歩入手の方法」が解けなかった方は54歩のミスディレクションにはまったのだろう。

☆54歩を取ることで慣性がつき無意識に84歩を取ってしまう。するともう盤面には手掛かりが消えてしまうという仕組。完全犯罪の成立だ。13歩と叩いて1歩入手してもちっとも得にならないという単純な事実をうっかりさせる魔術である。84歩は12玉と逃げられない時に取れば良かったのだ。

鈴木孝太郎 「いただける物は」と早めに84歩をいただいたため1歩不足で悩む。面白い趣向作品と思いました。
山本強志 84歩の存在理由が分からなくて、これがわかれば解けると思って考えました。玉方飛が移動した瞬間のみただで取れる!とわかって収束に辿り着きました。解けて嬉しい。
名越健将 上田ワールド初心者です。さりげない84歩の配置が、さすがである。1歩を求める為に1歩を取らない。解けて感動しています。
小林 徹 調子に乗って先に84歩を消すと歩が足りなくなる。なるほど、16飛を動かしてから84歩を取れば12玉と出来ないわけだ。

☆89手目16歩と飛車を入手するための最後の歩は、物語の始めから堂々と84に落ちていたのだ。この84歩という配置が、作意上は「取れる歩を取らずに74飛と途中で停まる」イリュージョンを実現させ、物語全体に「いかに1歩を得るか」という背骨を通した。

☆さっぱりとしたサラダのような趣向が、仕上げ次第で立派な一品料理になるという見本だ。

神谷 薫 パラ84.9発表作のような謎解きの妙はないが、この自然なまとまりはすごすぎる。
作者 金子義隆さんから刺激を受け、久しぶりに創作。どうやら完全らしいと言われた時は嬉しかった。

☆金子さん。全国大会の際に一杯おごらせてください。

草間準二 初手でいきなり迷った。序盤で早々と2枚の銀を捨てて手が続くのかなと思った。84歩を取るタイミングがなかなかわからなかった。「極光21」を鑑賞して長篇をいくつか解けるようになった。名作「オーロラ」は今回の作品より複雑だけど、今回の作品の歩合の出現と消失もオーロラのように見える。
池田俊哉 中空に現れる歩合が次々に消えていく、まさに「オーロラ連取り」と言ったところ。趣向の目的も16飛を移動させ、84歩を取った際に一歩節約する、という序から収束まで首尾一貫した流れは素晴らしい

☆作者名とセットで記憶される作品を持つ幸福。

山田嘉則 タイムラグのある連続合駒は『極光21』97番を連想する。84歩を後で取る構成に感心するし収束も期待通り。伝統詰将棋、フェアリー、チェス・プロブレム…ルールを超えて「上田吉一」というジャンルがある。

☆フェアリー作品集「極光Ⅱ」はまだJCPSから入手可能です。詰将棋作品集「極光21」は河出書房新社だが在庫稀少か。

永島勝利 84歩を後で取ると1歩持駒が増えるが、その前だと±0で増えないなど、非常に芸が細かい。収束も美味。
宮本慎一 馬と飛のスッキリとした詰み上がり。
水谷一 序の変化を確認すれば飛車の動きで角の位置を確保する趣向手順へ。角を取らせてから84の歩を補充し、さわやかな収束へと楽しめる好作。
加賀孝志 スッキリ収束も決まり馬が最後まで活躍。楽しめる作品になりました。
須川卓二 はじめて見る趣向。序~趣向~収束と見事なまでに構築された手順に感嘆のほかない。
鈴木 彊 飛のおまわりさんが香筋の道を止めて角が歩を拾いながら通らせて貰う。この繰り返しはなんともユーモラスがあり、まるで日本の遊びの鬼ごっことかくれんぼの二つの要素が含まれています。楽しさ倍増の内容でした。
野口賢治 連取りなのに駒がない。あるのは毒の84歩。そこで無から有へ手品のように捻り出す。見張り役の飛がユーモラスだ。
和田 登 香筋を止める飛車の献身的な動き、おもしろい趣向
国兼秀旗 香車のレーザービームを飛車でブロックする一瞬に角を要所へ引き、その後も同様な飛車と角のコンビプレーで玉を追い詰める様は、さながらスパイ映画のようである。難しいところはないが、それがかえって作品のテーマを浮き彫りにし、強い印象を与えてくれる。この作品もずっと記憶に残るだろう。
松沢成俊 最近の趣向作品はよくも悪くもこってりしたものが多いがサラダの味わいか。
はやし 上田氏の作品は綺麗でいい。

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