詰将棋つくってみた(168)
 課題35:講評

Judge:妻木貴雄

 Judgeを担当した妻木です。

 今回の課題は「同一駒を2回以上連続で捨てる」でした。昭和の昔なら「詰将棋とは,捨駒と見つけたり。」(三百人一局集の吉田健氏のことば)だったのですが,最近は「捨駒」をテーマにして詰将棋を作るのは大変になった気がします。そのせいで投稿が少なかったのかもしれません。

 また,副題?は「宗看流捨駒」となっていました。宗看の捨駒といえば,たしかに同じ駒をこれでもかこれでもかと捨てにいく豪快な手順が思い浮かびます。ただ,同一駒を2回以上連続で捨てても,なかなか宗看のようには見えません。難しいものです。

 投稿作は,数は少ないものの,短編から長編までバラエティに富んだものでした。内容も,手の感触で見せるものから,ミニ趣向や本格的趣向作など,さまざま。優秀作の選考には大いに悩みました。作者の感想などはなく,作意手順(一応自分で解いてみましたが)を見ての選考・講評だけに,見落としも多いかと思います。皆様のフェードバックを期待します。

優秀作

第6問 tsumetaro

正解
25角、27玉、36角、同玉、54角、45香、
同角、25玉、27香、同と、34角、36玉、
25角、同玉、45龍、26玉、16金、同玉、
15龍まで19手詰

 主役は二枚の角。どちらも連続2回捨てにいく。間に捨て合いが入り,合駒はあつらえたように退路封鎖の捨駒になる。最後に龍が登場して金捨てでしめくくる。

 二枚角の捌き捨てが素晴らしく,変化紛れも適度で,完成品と言える。初登場とは思えぬ作者の技量に乾杯! 
これを優秀作に推します。

講評

第1問 RINTARO

正解
32銀、12玉、23銀成、21玉、32成銀、12玉、
13歩、23玉、33角成、13玉、22角成まで11手詰

 捨駒で打った銀をさらに2回捨てる。その間に打った銀が成銀になり,打歩詰が打開できるという仕掛け。ヒモつきでない銀捨て連続3回とその意味づけがうまい。

 残念なのは捨てに行った銀が最後まで残ってしまうこと。ただ,銀を消すとなると全然別な図になりそうだ。作者は簡素形でこの手順を見せたかったのだろう。

 最初に解くには絶好の一局。

第2問 武田裕貴

正解
58金、56玉、67金、47玉、57金、同馬、
59桂、56玉、67馬、同馬、46龍まで11手詰

 馬筋をそらして46龍までの詰上がりが見える。手順もその線で進む。58金から67金と捨てて56歩を消去し,3枚利いているところへスッと寄る57金の味の良さ。連続3回の金捨てのあと,さらに用済みの馬まで捨ててしまうのは見事。

 人を驚かせるような手順ではないが,解いてよかったと思わせるきれいな手順。愛すべき小品。

第3問 negitarou

正解
43角成、35玉、25馬、同玉、24龍、16玉、
27龍、15玉、16歩、同龍、24龍まで11手詰

 初手はこの一手。3手目も課題からしてこの一手で,取れば詰み筋…と見ていたら,取るしかなく,以下あっけなく詰んでしまった。これだけの駒数にしては正直言って物足りない手順。5手目以降ほとんど働かない3筋より左の配置も残念。13香はなくてもよいのでは?

第4問 RINTARO

正解
37飛、56玉、36飛、55玉、35飛、54玉、
34飛、53玉、33飛成、同香、31角、54玉、
64角成まで13手詰

 香の利きを無視するように飛車が一直線に3筋を前進する。対して玉は一直線に5筋を後退する。この両者の動きがユーモラス。初形も手順にマッチしている。

 ミニ趣向ともいえる5連続飛車捨て。このアイデアには感心しました。

第5問 negitarou

正解
35銀、15玉、24銀、同玉、34龍、15玉、
24銀、14玉、35銀、13玉、24龍、12玉、
22歩成まで13手詰

 初手,3手目といい感じで進むが,5手目以降はこれで詰みなの?というのが率直な感想。35~24と24~35の銀の動きが狙いなのかもしれないが,ちょっと手順がうす味すぎないだろうか。

第7問 川蝉

正解
22金、41玉、32金、51玉、42金、61玉、
52金、71玉、62金、82玉、72金、同玉、
73金、81玉、21飛成、92玉、91龍、同玉、
83桂、92玉、91金まで21手詰

 22金から1枚の金で連続6回追いかける。特に32金以降は,23飛の利きと持駒金2枚を利用して,ヒモなしの金による追撃でいい感じだ。最後は陰の主役の23飛が消えてきれいな仕上がり。軽い配置と桂趣向の組合せがよい。

 ただ,この手順を見ると,山田修司氏の「死と乙女」(「夢の華」第20番,詰パラ1951.10.)を思い浮かべてしまう(土屋健氏の名解説も)。そのため評価が辛くなってしまった。

第8問 川蝉

正解
22金、33玉、32金、43玉、42金、53玉、
52金、63玉、62金、53玉、52飛成、同銀、
同金、63玉、72銀、52玉、61銀不成、63玉、
52飛成、73玉、63金、83玉、72銀不成、同銀、
同龍、93玉、83金、同角、同龍、同香、
82銀、同玉、71角、92玉、82金、93玉、
81金、92玉、82角成まで39手詰

 二段目の両端にいる飛車の利きをバックに22金から追いかける。詰方の最初の数手が同一作者の第7問と同じなのは意識してのことか。ただ,第7問と違って,本作は金追い部分の変化が難しい。中でも42金と62金の瞬間は,どちらの銀で取るか,どちらの方向に逃げるか,悩ましい。変化が多くかつ深くなった分,追い趣向のおもしろさが減った気がする。課題の連続捨ても,飛車の利きがあるせいか,あまり捨てている感じがないのが難点か。

 いささか辛口の評になってしまったが,今回一番の難解作であることは間違いない。

第9問 本間晨一

正解
67龍、86玉、75龍、同金、97銀、同と、
同龍、76玉、77龍、65玉、75龍、同玉、
76歩、同玉、77金、75玉、76歩、65玉、
66金、54玉、55金、43玉、44金、32玉、
33金、31玉、32歩、同銀、同金、同玉、
33銀、43玉、44銀成、32玉、33成銀、21玉、
22成銀、同玉、88馬右、13玉、22馬、14玉、
15歩、同玉、33馬上、14玉、23馬引、同銀、
15香、25玉、16銀、26玉、27金まで53手詰

 99馬,88と,79馬の仕掛け。6筋から4筋にかけの階段。以上を見てヒモなしの金でナナメに玉を追いかける趣向が予想できる。指将棋の戦術に「凧金」というのがあるが,この趣向はまさにそれ。追いかける金は糸が切れた凧のように見えるが,二枚の馬と見えない糸でつながっているのである。凧金で5回追いかけたあと,凧銀?4回のおまけつき。玉が逃げ切れず凧を取った瞬間に88馬のスイッチが入って収束。課題を活かした雄大な趣向詰になっている。

 最初に,手順が予想できる,と書いたが,それは同様な趣向が出てくる昼間勉氏作(近代将棋1970.09.第36期塚田賞長編賞受賞)を知っていたから。第7問と同様に,有名な先行作があると,どうしても比較してしまう。

第10問 keima82

正解
16香、15桂、同香、同玉、16金、14玉、
15金、13玉、14金、12玉、13金、21玉、
12金、31玉、39飛、同馬、51龍、41歩、
43桂まで19手詰

 第9問の99馬,88と,79馬の仕掛けを,58龍,18歩,19飛に置き換えて,ヒモなしの金でまっすぐ玉を追いかける趣向。そういえば,第9問で紹介した昼間勉氏作も,山田修司氏作「鯉のぼり」(「夢の華」第71番,詰パラ1968.05.)がヒントと作者自身が書いておられた。こちらは第9問のような雄大さはないが,手数を短くしてミニ趣向の感じが出ている。

 この趣向は玉が逃げ切れなくなった瞬間にスイッチが入って収束…と考えていたが,この作品では玉が逃げ切ってしまい,別の舞台で58龍と19飛のスイッチが入る。特に19飛を捨駒で消したのは見事。58龍も捨てられれば最高だが,作者は最短の収束にしたかったのだろう。仕掛けの残りの18歩も合駒制限になっており,全体的にうまい作りになっている。

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