宇佐見正の守備駒翻弄を詰将棋入門で取り上げた。
筆者が初めて「凄い」と思ったのは短篇名作選の山田修司作だろうか。
山田修司 「不動明王」 夢の華 第78番 近代将棋 1970.5
山田修司と言えば中・長篇のイメージが強い。
構想力とそれを完璧に表現する力に圧倒されるが、このような短篇をみると作図技術の凄さを味わうことが出来る。
37銀だと同馬で28桂が打てないからダメ。
そこで28金を消してから38香、同と、37銀だとやはり同馬で28桂は打てるけど、同ととされてしまうのでダメ。
そこで39香が必要になるという仕組み。
同ととは、48桂があるので、出来ないので同馬だが、これで38香に同とだと37銀を馬で取れない。
結局すべて馬でとるという作意が構築されている。
38と1枚の配置で、本当に上手いものだ。
筆者はこの作品から「馬の翻弄」というナラティブを受け取ったが、作品集の際につけられたタイトルから察するに作者は「不動玉」というモチーフだったようだ。
「守備駒の翻弄」とちょっとニュアンスが異なるが、「守備駒の移動」というナラティブを解答者に確実に届けるにはどのような表現が最適かという問いに対する模範解答が伊藤正によって出されている。
伊藤正 詰パラ 1983.2
最後にオマケでちょこっと翻弄して幕。
完璧。
伊藤正ははやいとこ作品集出して人類を唸らせてほしい。
(そろそろ定年か?)
伊藤正の欠点は若くして老成してしまったこと。
多分、半端な若々しい作品も大量に作ったはずなんだけど、そういうのはお蔵入りされて永遠に封印されてしまっていると思う。
(名を惜しむなら変名で放出してしまえば?)
龍の翻弄では平成20年度看寿賞の中村雅哉「奔龍」が有名。
全応手龍の21手詰。
ただこの作品は「全応手龍の最長手数作」という印象が強い。
作者は「同龍の回数を増やすだけなら駒取りをもっと増やせばできる」と書いているが、全応手龍に拘らなければ、この作者ならもっとなめらかで美しい龍の翻弄物語を紡いでくれるはずだから。
このような記録更新を創作動機とした詰将棋を示すいい言葉を作りたいと思っていて思案中である。
(内部では馬屋原さんが記録更新好きなので馬好みと呼んでいる)
上田吉一が「極光21」で”守備駒2種類を翻弄する作品は意外に少ない”と書いている。
平成24年度の看寿賞中篇の廣瀬崇幹作は金とと金の2枚を翻弄する傑作だ。
その下に並んでいるのは芹田修の名作。
「蟻銀」なんて数年後には意味不明になる名前は捨てて、ちゃんと命名してほしい。
全応手馬の記録作だが、不思議に馬好み臭さはない。正しく「馬の翻弄」になっている。
【註】最近の作品の作者名を呼び捨てにするのは抵抗感が強い。でも、まぁ、そのうち歴史の教科書に載る名前なのに芹田さんなんて逆に馴れ馴れしいから仕方ないと言うことで!
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