詰将棋入門(74) 桂桂香→歩の事前不利交換

伊藤看寿 『将棋図巧』第17番 1755

本局は奇想天外な伏線が有名な傑作。


本局の解説には紛れに跳び込んで行かざるをえない。
申し訳ないがお付き合い願う。

持駒は貧弱なので盤面の大駒を活躍させていくしかない。

初手73龍はどうか。

間駒は71角成まで。

同銀、94角成、82玉

【失敗図1】

持駒は桂と歩だけ。
これは絶望だ。44角が働いていない。
それなら初手はこの角を働かそう。

71角成、

82間駒は73飛成、同銀、94角成まで
このように簡単に詰む変化があると有望だ。
以下84玉、62馬、93玉、94歩、82玉、72角成……で簡単に詰むようだが。

84玉、62馬、73桂、

馬を近づける73桂の捨合がある。

同馬、93玉、

【失敗図2】

73同銀とは取れない。94角成までなので。
94玉で打歩詰の形だ。
そこで思い出すのが「打歩には不成」の格言。
実際にはここで角を表返すのだが、初手から戻っておこう。

(初手より)71角不成、

84玉、62角不成、

73桂、同角不成、94玉、

これで94歩が打てる。

94歩、83玉、72角成、同玉、

83玉に角を切るぐらいしか手がない。
さらに次は龍を見切って開き王手ぐらいしかないだろう。

95角成、

61玉、71龍、同玉、62銀、81玉、82香、

門脇芳雄『詰むや詰まざるや』ではこの紛れ順の記述が61玉ではなく75銀になっている。(20刷で確認)
それでは後で74馬ができるので詰む。谷川浩司『将棋図巧』の方は流石に正確である。

同玉、73馬、81玉、63馬、72香、

同馬、同玉、73銀打、63玉、64香、62玉、

【失敗図3】

さてこの【失敗図3】こそが作者の想定したものだ。

この謎を解く鍵を発想するにはかなりのジャンプ力が必要だ。
手掛かりは32と55の成香にある。
なぜこんな所にと金ではなく成香を使用しているのか。
これは香は4枚しかないということを利用したトリックなのだ。
途中から図面に玉方の持駒も表示してあることに気づかれただろうか。

それでは作意手順を並べていく。

71角不成、84玉、62角不成、73桂、96桂、

96桂が第一の妙手。同とは73角成、93玉、85桂までなので同香。

同香、73角不成、93玉、94歩、83玉、95桂、

続いて95桂が第2の妙手。ここまでくればこの4手の意味がおわかりだろう。

同と、72角成、同玉、

【失敗図3】では持駒に桂2枚が余っていた。
したがって桂馬2枚を消費して、95にいる駒が香だったのをと金に替えておいたわけだ。

95角成、

95で得た駒が香でなく歩であることに注意。

61玉、71龍、同玉、62銀、81玉、82歩、

そこで81玉の頭を叩く駒は香ではなく歩になる。

同玉、73馬、81玉、63馬、72飛、

その結果が72飛合になって現れる。
【失敗図3】に至る72香合は82香の叩きで玉方に渡った駒であったということだ。
金合は同馬で簡単。角・桂合は取らずに82銀、同玉、73銀成なので……香合がしたいが持駒にない。
そこで飛合がもらえるというわけだ。

同馬、同玉、73銀打、63玉、64飛、52玉、

さて、これが【失敗図3】と比べるべき局面。
持駒桂2枚がなくなって換わりに64香が64飛になっている。
これで以下の収束につながるという仕組みだ。

61銀不成、同龍、同飛成、同玉、63飛、71玉、62飛成、81玉、82龍 まで41手詰

香先香歩のような「不利」手筋の進化形。
持駒の桂を2枚消費して持駒が「香」になるところを「歩」にしてしまおうという奇想に脱帽だ。

本局を紹介するのに「持駒桂桂香なら詰まないが持駒歩なら詰む」とした文章をよく見る。
それは紛れ16手目の局面と作意20手目の局面に着目した表現で本局の素晴らしさをよく表しているが、その局面に至るまでの部分、開き王手で取る質駒をすり替える部分も同じ程度に賞賛しておきたい。

三度の角不成や桂の捨合がこの主題のデコレーションというのもなんとも贅沢だ。

本局にも一つ瑕疵がある。
それは狙いの一つ目の桂馬96桂だが、作意は5手目だが3手目でも成立する。
いわゆる手順前後だ。
門脇『詰むや詰まざるや』、谷川『将棋図巧』、内藤国雄『将棋図式集(中)』でも言及されていないので勘違いかと念の為柿木将棋に解かせてみたら3手目に桂馬を打つ順を応えた。
狙いの一手の片割れなので人によっては評価値を大きく下げるかもしれない。

筆者は手順前後を勘案しても、現在の価値判断で大傑作であると思う。

「詰将棋入門(74) 桂桂香→歩の事前不利交換」への1件のフィードバック

  1. 詰将棋は価値転倒というある種のカルト宗教的な価値観があるのかな。それにしても江戸時代恐るべしです。

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