詰将棋入門(127) 三段馬鋸

黒川一郎「天馬」『将棋浪曼集』第100番 詰パラ 1968.4

荒駒」と同時に発表され、同時に看寿賞を受賞した名作。

美しい初形、そして持駒。
見ただけで「ただものではないな」と緊張感を覚える。

冒頭からいきなりメインの趣向がはじまる。

89馬、11玉、
12歩、21玉、22歩、31玉、32歩、同玉、
98馬、22玉、88馬、12玉、78馬、11玉、

歩を取ると作意に短絡し歩が節約できて早く詰む。
32玉に23馬では詰まないのが鍵だ。(馬は61を睨んだ34でないといけない)
98馬に31玉は21歩成、41玉、42金、同玉、97馬で早い。

12歩、21玉、22歩、31玉、32歩、同玉、
87馬、22玉、77馬、12玉、67馬、11玉、

暫くは繰り返しである。

12歩、21玉、22歩、31玉、32歩、同玉、
76馬、22玉、66馬、12玉、56馬、11玉、

ゆったりと近づいていく馬。
「天馬」のタイトルがピッタリ嵌まっている。

12歩、21玉、22歩、31玉、32歩、同玉、
65馬、22玉、55馬、12玉、45馬、11玉、

長編作は趣向手順までは易しいのでわかることがよくある。
収束がわからなくても、半分くらいは鑑賞したことになると思っている。

12歩、21玉、22歩、31玉、32歩、同玉、
54馬、22玉、44馬、12玉、34馬、11玉、

さて、本作も難しいのはここから。

12歩、21玉、22歩、31玉、42金、

32歩ではなんと41玉で、もう42歩と打つ歩がない。
そこで42金と英断する。

   同玉、33金、31玉、21歩成、41玉、51銀成、

21歩成に同玉は43馬以下16桂が働いて詰む。(後で出てくる)
打歩詰の局面となり、51銀成の妙手が登場する。

   同玉、61馬、

同金は42歩から精算して52金で早い。
91角に期待して主役の馬を切る。

   同玉、71香成、同玉、72金、

残しておきたい金を放出。

   同玉、73角成、71玉、72歩、61玉、
63香、52玉、62馬、41玉、

舞台は再び右辺に舞い戻り……

31と、同玉、53馬、21玉、43馬、12玉、
24桂、11玉、21馬、

こちらの馬まで鮮やかに捨てる。

   同玉、32桂成、12玉、22金 まで101手詰

なんとも美しい作品だ。
構想してから完成まで20年という。

「落花」で煙詰を大衆化した黒川はこの作品で馬鋸の大発展の端緒を開く。
それまでは階段状に馬が移動する馬鋸しか存在しなかった。

本作の馬の軌跡は図の通り。

「三段馬鋸」の1号局である。

この発想自体を図化することはさほど困難ではないだろう。
20年の苦闘は、この発想に相応しい収束を作ることにあっただろうと思われる。

少しだけその難しさを想像してみよう。
まず収束を作るために趣向が終わってから働き出す駒を配置する必要がある。
しかしまず歩がない。すべて趣向手順で使っている。
さらに駒を置く場所がない。
馬鋸が動く12-89ライン、11-99ライン、21-98ラインだけでなく、変化で97馬と覗くので31-97ラインにも玉方の駒の利きがあってはいけないのだ。

趣向に使われない残った駒を限られた範囲で配置して収束を作らなければいけないのが長編なのだ。

本作は収束73角成に作意は71玉で歩を使わせるが、81玉と逃げると83香以下歩を使わないで詰む。
そのかわり2手長くなる。
所謂変長だ。

たまに「変長を前提に成立した手順だ」とか「長編にだけ変長が認められるのはおかしい」という人がいるが、私にはそういう発言する人の気持ちが理解できない。

変長を前提に創作をはじめる人はあまりいない。
順序が逆なのだ。
妥協の結果変長なのであって、それを含めてどう評価されるかと作家は世に出している。
「世に出すな」というのは世界を狭めるだけだ。

短編でも変長は規約上認められている。
変長を理由に採用しない担当者は間違っている。
おそらく変長でも採用したいという作品が投稿されていないだけであろうと想像する。

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