詰将棋入門(148)のと金の動きを見ていて、久しぶりに本作品を並べたくなった。
伊藤正の名作だ。
伊藤正 詰パラ1983.1
と金の翻弄部分はほぼ同じ。
果たして伊藤正はこの高木秀次作から発想を得たのだろうか。
これは難しい問題だが、たぶん違うと思う。
高木秀次作から先打突歩詰に装いを変えたら面白いんじゃないかと発想するのは、ちょっと天才すぎると思われる。でも伊藤正だからその可能性も捨てられないから難しい。
もちろん上の伊藤正作が大人気を得たのは、その斬新さによる。
詰将棋には難解性とか捨駒とか序盤とか収束とか当然そういったものが必要だと皆が思っていたときに、「こんなの面白くないですか」とごろっと見せてくれた。
難解性も捨駒も序盤も収束も見当たらない。
あるのは初形と28手目の局面の対比だけ。
「突然、16歩が出現した」
この驚きだ。
この部分とこの部分が対比になっているんですと解説されてわかるという内容ではない。
誰もが手順を並べただけで理解できる。
これが伊藤正ブランドだ。
先打突歩詰という言葉は森田正司さんが自作(『春霞』第26番)の解説に使ったのが初めだと思っていた。
パラ1964年11月号に次のように書いている。
作者「歩先打突歩詰めという打歩詰回避の珍手筋を含む作品はこれまでに一、二あるが、これを主題としたのは始めてと思う。」
しかし、気になって調べてみると、田中至氏が最初に考案したという記述もある。
詳しい方のご教授を待とう。
どの手筋も本質的には同じであるが、実現すれば面白いという訳ではない。先打突歩詰も表現が難しい手筋の一つだと思う。
しかし先日twitterで面白い作品を見つけた。
新宿将棋センター閉鎖まで……米長企画の詰将棋
米長九段は図面を見るなり「これはいいね」。ほんの10秒足らず。創作に費やした時間は何と儚いものなのか。「いいね」の意味は、作品としてではなく出題としての「いいね」かも。後日近藤正和三段(当時)に見せたら瞬時に詰ませてゴキゲン。私は斜め。 pic.twitter.com/G63mW2UC6a
— 芳賀 徹 (@feteuma27) January 31, 2021
芳賀徹
- 初手23飛の誘い手が強烈で打歩詰の失敗図に辿り着く。
- 35歩が同との余地のある捨駒になっている。
やはり短篇はこの「誘い手」の存在が大きいんだなと改めて思った。
Tweet
作図中はまったく高木作は頭になし。発表時も高木作に触れた評はなく、ずいぶん後になって「衝突」を知りました。どこかで見ていたかもしれませんが、ご指摘のとおりで、ヒントにもなっていません。
頭にあったのは、「上田流不規則繰り返し」の自分流アレンジ、くらいで、先打突歩詰や原型復帰も後から出てきたというのが正直なところ。
「なんかおもろい作品ないか」と山本さんに言われて見せたら「ワシの思うおもろいのとちゃうなあ」と言われたのも懐かしい思い出。
考えてみたら私も高木作を知ったのは1993年の『千早城』ですから普通は知らないですよね。
と金の動きは同じですが伊藤作は44角の存在で手の意味付けが全然違うので高木作を知っていた解答者も類似性を全く感じなかったのでしょう。
それにしても伊藤作は誰もが「先打突歩詰の最高傑作」と引用していますね。誰か挑戦しないかな。