詰将棋入門(159) 二歩禁を利用して詰み形を作る

三代伊藤宗看『将棋無双』第2番 1734.8


1970年代の作品を紹介してきたが、ここで暫く古典に戻る。
伊藤看寿と三代伊藤宗看は神格化された詰将棋の古典だ。
看寿の主要作品はすべてこの連載で紹介したが、兄の伊藤宗看は第30番第70番の2局しか紹介していない。
難解で知られる三代伊藤宗看の主要な作品をこれからいくつか並べていこう。


桂馬と銀が利いているので玉は1筋しか動けない現状。
大駒3枚は遠くにいて王手もかからない。
とすれば歩を突くぐらいしか手はない。

16歩、14玉、15歩、13玉、14歩、24玉、

13歩に22玉は33銀成で香と馬も利いているので圧勝。
23玉は33香成、24玉、35銀、同玉、85飛成、36玉、54角成、37玉、35龍、36歩、同馬、38玉、47馬、同玉、48飛まで21手詰
38まで玉を追いかける変化だ。

で、王手がなさそうな24玉が正解だ。
平凡に33銀不成では同銀、同馬、35玉で36~37という逃走路を押さえられない。
66馬が睨みをきかしている内に上部へ追い込まなくてはいけない。
そこで逃走路から手をつける35銀が妙手だ。

35銀、同玉、85飛成、34玉、

35銀と棄てて飛車の活用を図る。
55に間駒が効きそうだが、55桂合は同龍、同歩、45角成、24玉、36桂、23玉、33香成、同玉、55馬上、42玉、64馬、33玉、44馬、23玉、35桂まで25手詰

54歩が動くと63角が動き出してくるので玉の上部脱出は阻止できる。
そこで34玉と戻して逃走は阻んだが、ここからが難しい。
平凡に進めると

44馬、23玉、25龍、24歩、

【失敗図】

持駒が歩しかない。
これは不詰だ。
63角は41金を取るしかないのだが、そのような展開は望めない。

正解は11手目に戻って26桂。

26桂、

大駒2枚で迫って詰まないのに、単騎の桂が跳ねて何が変わるのかというような妙手だ。

23玉、25龍、24金、

ところが今度は25龍に金合が出てくるのだ。
そのココロは13歩成、同歩、同香成、同玉、14龍、22玉、34桂

26桂の厳しさが理解できるだろう。
さらに変化は続く。

33馬、同玉、24龍、同香、34歩、22玉、13金、

【変化図】

11玉、12金、同玉、13歩成、21玉、12と、31玉、41角成、同銀、22金まで31手詰
46香の頼もしさが光る。

というわけで、11手目26桂には同歩と取ることになるのだが、ここから土石流のような攻めが始まる。

【再掲図】

   同歩、44馬、23玉、
25龍、24桂、34龍、

   同歩、33馬、

   同玉、25桂、

26桂、同歩とした意味を理解できただろうか。
25龍に対して歩合を拒否するためだった。
変化は省略するが、24は桂合になる。
では桂馬が欲しかったのかというとそうではない。
34龍~33馬と豪快に捨駒をして25桂という詰み形を得るためだったのだ。

   22玉、13歩成、同歩、
23歩、同銀、13香成、11玉、

途中23歩が取歩駒の銀を呼び寄せ、12歩の打歩詰を事前に回避する好手。

12歩、同銀、同成香、同玉、
13歩、11玉、

あとはさらさらとした収束である。

12銀、22玉、23銀成、同玉、
41角成、32桂、

桂合以外は2手短く詰む。

同馬、同玉、33金、31玉、
43桂、41玉、51とまで47手詰

26桂という一見頼りなさそうな狙いの一手と迫力満点の大駒連捨てのコントラストが素晴らしい。またそれらを重厚な変化が正解に辿り着くのを阻んでいる。

これらが強烈な個性をうみだしており、誰にでも好かれる看寿よりも宗看が好きだというコアなファンを持っている。

本局の狙いの26桂は「そのまま取ることができる25歩を捨駒でわざわざ動かしておいて25龍とする」演出になっており、これを若島正は取らず手筋(ウムノフ)と命名した。(2014)
これはウムノフを実現するために「二歩禁による合拒否」という原理を用いている作品というわけだ。

下の2冊は内容は同じ物で左が軽装版、右が上製版である。
詰将棋ファンならずとも将棋が好きなら日本の一つの文化として嗜んでおくべき1冊だ。

 

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