詰将棋入門(188) 連続移動中合

三代伊藤宗看『将棋無双』第96番 1734.8

すべてを壮大に捨てて逃げていく。イザナミに追われるイザナギの如しといいたいがちょっと違うか。

攻方の駒は少ないようだがこの玉さん、かなり厳しい状況にある。

31角、32玉、42と、23玉、

【失敗図】

この局面でなにか1枚駒を持っていれば、○○☗、12玉、13歩成までで詰みなのだ。
(13歩成は決め手にしたいので直ぐに13歩成としては駄目)

そこで初手は初形を見てまずやってみたかったあの手で間違いない。
確信を持って進めよう。

82飛成、

71金がいるが、同金なら89龍が同龍とできる。
かといって何を合駒しても持駒が入手できるので31角から詰む。

   23玉、

したがってなんと間駒が効かずに23玉と逃げるしかないのだ。
もちろん玉はますます窮地に陥っている。
今は持駒が「角」だが、角と歩以外の駒が持駒にあればその駒を打って1手詰の局面だ。

このようなときはそう合駒による持駒変換の出番だ。
角を打って別の駒と交換することができれば良いのだ。
そう思って盤面を見渡すと、邪魔駒が見えてくる。
そう角の打ちたい場所を占拠している89龍だ。

13歩成、同玉、19龍、同と、14歩、23玉、

この龍をはじめから邪魔駒としての存在としないために、初手82飛成に同金の変化を作っている宗看の心配りに注意しておこう。
さて89龍を消去していよいよ待望の角が打てる。

89角、

さてこれで玉は痺れている。
何を合駒しても同角、同☖、○○☗だ。
歩合は二歩禁でどこにもできない。角は売切れだ。

34歩、同角、同銀、24歩、33玉、42龍まで

【変化図】

邪魔駒を捨てての遠打はそれなりの手ではあるが、この大掛かりな配置でこれで終わりの訳がない。
実は移動中合という手がある。

(89角に) 45香、

これはもちろん「タダ」だ。

同角、34歩、

同角にやはり34歩とするしかない。
持駒に香が増えただけにみえる。
慌てる良くない、この手の意味が分かるのもう少し先だ。

同角、33玉、42龍、44玉、

34角も同銀ととらずに逃げ出すことを優先する。
44香を45香と捨てたことによって、44玉と逃げ出す道が拓けた。

43龍、35玉、45龍、26玉、

36龍、17玉、37龍、27歩、28銀、18玉、
27銀、17玉、16銀上、18玉、27龍まで

【変化図】

持駒が余るのでこれは変化だとわかる。
それではさらに逃げ道を空けたら?

(89角に) 56歩、

そしてさらに

同角、45香、

これで55に逃げていこうという狙い。

【変化図】

しかし、同様に追って45龍までの詰みだ。
しかしさらに…66も空けたら、66玉、56龍まで。
そしてさらに…

これで宗看の考えた見せ場が解明された。
本局は玉方の応手が見所なのだ。

9手目の局面から作意を鑑賞しよう。

89角、

  78歩成、

同角、67歩成、

同角、56歩、

同角、45香、

同角、34歩、

同角、33玉、

結局香を1枚と歩を4枚只捨てして逃げ道を空けるという非常手段である。
さらにまだまだ追い回されることになる。

42龍、44玉、43龍、55玉、45龍、66玉、
56龍、77玉、67龍、

88玉では97銀ですぐ捕まる。

   86玉、89香、95玉、97龍、

ここら辺で今度は作る立場に気持ちが動いてくる。
この派手な応酬で攻方に持駒を大量に持つことになる。さらに大駒2枚も健在だ。
詰将棋にするためには持駒を使い果たす必要があるのだが、どうやって持駒を処理するのだろう…。

宗看の出した解は実にスマートだ。
玉を端に追い詰めたら早くも龍を綺麗に捨てる。
飛合の変化はあるが省略する。各自で考えられたし。

   同馬、96歩、同玉、

ここから銀歩送りと呼ばれる趣向になる。
大量の歩を消費したいときに後に多用される趣向だ。
ただし宗看がオリジナルではなく、曖昧な記憶ではお父さんの宗印だったような気がする。(古典に詳しい方フォローよろしく)

85銀、95玉、96歩、同馬、84銀、94玉、
61角成、

ここで序盤に変化で一仕事した71金にもう一仕事させるところが感動だ。
銀歩送りの途中でこのような手を入れると、95歩打ちとの手順前後が消せない。
これを余詰と騒ぐ人とは仲良くなれない。手順前後でいいじゃないか。
また、61角成、72飛合、95歩、同馬、83銀不成、93玉、94歩、同馬、71馬、82歩合で変長だと騒ぐ人もいるかもしれない。(まぁ本作は古典だから目くじらを立てないだろうが)
しかし、最近まじめに「詰将棋は江戸時代に戻して妙手説でいいのではないか」と考えている。
これホント。

同金、95歩、同馬、83銀不成、93玉、
94歩、同馬、82銀不成まで51手詰

それにしても89角に逃げ道を空けるための連続中合という発想からスタートしたとして、詰将棋に仕上げるのに邪魔駒消去から大駒が消える収束までなんと理想的に展開された作品であることよ。不純物は余詰防ぎの74歩ただ1枚!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください